第270話 洋介の師匠


「えっと、私達がこちらに来た理由はこんなところです、なにか質問はありますか?」



お母様候補は思っていたよりもまともそうだ


辺境の地でお父様が婚約した時の姿絵があるが着ていた服は下着未満だと思う


よくもまぁあんな姿で婚姻を人々の前で披露できたと思う


クッキーは美味しい、お父様のシャシンは素晴らしい、だけど何枚かのシャシンを取り出した後に出した布にはお父様の匂いがした


表情もかえずにそのまま戻したがあれは明らかにお父様の服だ


それだけ仲がいいのだろう、だけど、認めたくない


僕達のお父様にお母様が出来るなんて・・・


ちびっ子も居るけどあれは相手にされていない



「認めたくない・・」


「えっ」


「あんたがお父様のお嫁さん候補なんて認めたくない!!」


「おいロム」


「黙れラディッシュ!だって出会ってすぐなんだぞこの女!?そんな女に僕たちのお父様はもったいない!!」



「ロムさんで、いいのよね?」


「そうだ!黒葉奈美!僕はお前をお母様とは認めないぞ!!」



皆が僕を見る目が結構きつい


ラディッシュはいつも姉のように振る舞うが僕はこいつを認められない



「えと、そうですね、私は自己紹介しました、ロムさんも自己紹介してもらっていいですか?元杉神官との出会いとかも知りたいです」


「お?良いわ!聞かせてあげるからさっさとイチモクタイサンしてしまいなさい!」








僕とお父様との出会いか・・・元々僕は国がなくなっても魔王軍と戦い続けた貴族の娘、僕1人になったけどそれでも戦い続けた


それで歴戦の勇士、英雄の一員として勇者パーティの一員となって、勇者の代が替わっても生き残り続けた


短期間で3人の勇者と共に戦った


だけど勇者たちは死んじゃって、それで魔王軍の内通者呼ばわりされて軟禁されて、貴族に魔法を教えていた



まだ戦いたかったのだけれど戦いで瘴気が体を蝕んでいたからもう無理ができなくなっていた



次の勇者も死んで、最後の勇者がザウスキアで召喚された


召喚されたのは子供だった


それも召喚の影響か召喚の前からなのかは分からないが頭を怪我して記憶のあやふやな子


魔法の教育係として初めて出会った


阿呆貴族と違って純粋、明かりの魔法1つでキラキラと目を輝かせていた


異世界人だし言語自体が違うのだから仕方ないのに真面目に勉強していた


要領は酷く悪かったがそれでも机で寝てしまうまでずっと勉強していた


魔法も倒れるまでやっていた


彼の成長が好ましかった



「師匠は何ていう種族?」


「僕・・・僕は魔族に近い人種かな」



世界が平和だったら人はこんなに無垢に育つものかと思った


純粋に魔力に喜び、人種の違いに楽しみ、世界の広さを感動し、届かぬ星をよく見上げていた


そんな洋介くんに嘘は付きたくはなかった



『魔族』



瘴気に身体が適応し、進化していった種族、人よりも魔物に近い存在


瘴気を撒き散らすものもいれば凶暴になるものも居る


瘴気がなければ生きられないものもいる


でも僕は少し耐性があるだけで凶暴になったり瘴気を撒き散らすわけではない、ほとんど人種でちょっと強い魔力を持っているだけ


祖国を覆った薄い瘴気に身体が適応しただけかもしれない


完全に人間かというと流石にそれは違うと断言できるほどには瘴気には順応しているが、それでも常に体の芯は痛む


魔族は瘴気に適応しているがゆえに魔王の側につく、人類の敵対者だ


愛するものを失い、住んだ土地を失い、全てを失った者のやり場のない怒りが僕に向かうこともあった


洋介くんに侮蔑の目が向けられるのが怖かった



「ふーん、そうなんだ・・・きれいな髪だね」


「そんなことよりも魔力の操作が甘いよ」



内心はドキドキした、琥珀のような髪の色が苦手だった


有り余る魔力で髪は浮くし、軽く発光することがある



それだけでどれだけ人に石を投げられたことか・・・



お母様譲りの髪の色だったけどあまり好きではなかった


なのにたった一言褒められただけで心が浮足立ってしまった


ついそっけなくしてしまったが・・・きっとあの時にはもう意識してしまったんだと思う





それでも僕は貴族の娘として、人として、胸を張って魔王を倒すという目標があった


お父様とお母様が好きだった


2人は人として立派に生きて、人として立派に死んでいった


最後は領民を護って魔族に殺された



洋介くんの第一印象は「この勇者はだめだ」の一言だった



力もない、技術もない、特殊な能力もない



あるのは目標だけ、実現するための力がまったくない勇者だった


なのに、他の勇者と違って僕は助けたいと思ってしまった


加護を複数授かるという無茶苦茶な旅に同行し、彼の強さを見た


身体がちぎれても、毒を飲まされても、強靭な大男でも泣き叫んで耐えられないような試練でさえ淡々とこなした



「どうしてそんなに頑張るの?」


「お父さんとお母さんのため」



誰かのために行動できる彼が好きだった


その辺に転がっている難民を助けようとし、賊を殺して吐き、悪夢に苛まれていた


本当に純粋、ゴブリンでさえ殺すのをためらっていた


いつしか目が離せずにいた


彼の成長がもっともっと楽しみになって・・もうすぐ瘴気で死んでしまうこの体が惜しくなった


何度も魔王軍と戦ってきて、限界まで頑張ったはずなんだけどな



悔いが残ってしまった



彼の成長が見られなくて残念だった



だから瘴気で言うことを聞かない身体を無理やり動かして、勇者の旅に同行した


寝て死ぬぐらいならかつての仲間と同じく、魔物に、魔族に殺されてもいいと思った


彼の盾になれればそれで良い



はずなのに



急に身体が動かなくなった僕の盾に洋介くんがなって


肩を食いちぎられた洋介くん


すごく痛むだろうに、動けない僕に治癒の魔法と清浄化をかけてくれる


いつもなら清浄化で少しはましになるのに、身体に力が入らない


まるで自分の身体が大地の一部のようになったかのように、重くて動かせない



「ありがとう、でも、もう、終わり、だからさ」


「いやだ!いやだいやだいやだ!!!」


「聞き分けが・・・ないなぁ」


「僕は、僕は助けたいんだ・・だから師匠!お願いだからあきらめないでよ!!」



魔物に襲われて血だらけで泣いている洋介くん、このまま僕が死んで、それで洋介くんの成長になるならそれもいいと思った


大切な人が死ぬのは、辛いよね


だけどそれはきっと力になるから


悔いも嘆きも、人を成長させることが出来るから



必死で僕を治そうとする洋介くん


未練が出来てアンデッドになってしまいそうだ


いやそれも悪くないかな?高位のアンデッドになったら濃い瘴気の魔族領土で暴れまわってやる


それで魔王を倒して、最後に洋介くんに殺してもらえたら・・・嫌だなぁ



「―――――!!――!」



もう何を言ってるのかわからないけど血だらけで僕の上にいる洋介くん、無傷で横たわる僕


普通なら逆でしょう



「―――!――――――!!!―――!?」



あぁ、ここまでなんだな


嫌だなぁ、最後の言葉ぐらい聞きたかったのに


か弱い力しか出せない無いはずの洋介くんが僕に口づけしてきた





息を吹き込まれ





身体に焼けた鉄が流し込まれた





胸の上を洋介くんが手を重ねてなにかしている



ドクン―――・・!



胸の鼓動が大きく脈打った

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