第251話 荒野の黒葉
口の悪い少女と話をしていく
現在地はザウスキアとの国境近くの荒野であり、レアナー神聖教国内、このあたりにはなにもないそうだ
うん、赤茶けた荒野しか見えないね
「そんな事も知らないのかよ馬鹿だなー」
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥・・・なんてね」
「なんだそれ?」
「ことわざよ」
今は元杉神官を助けたい、それは恥なんてよりもっと大切なことだ
本当はミルミミスさんに乗せてもらって移動したほうが速い
だけどこちらのレアナー様が敵であるのならレアナー教国内のこの子が敵に回る可能性だってあるし情報が欲しい
治癒魔法はただ傷が治るだけではない
怪我や病気の治る過程でレアナー様の力の一端に触れる
だから信仰心なんて欠片もない「こんな怪しい宗教の信徒になんざなるか!金を払うから治してくれ!!」なんて言っていた患者が治癒後に熱心な信徒に変わるんだと思う
治療後の意味不明な行動は怪我や病気が長期に渡って身体に害を及ぼし続けたものほど起こしやすい
骨折してすぐの治癒ならばあんなことにはならない
魔力という謎のエネルギーが身体になにか作用している可能性もある
レアナー様の治癒魔法は肉体の再生を行う上でレアナー様の力に体の芯から触れることになる
その結果、過激派のような狂信者達が生まれる、のかもしれない
ケーリーリュさんいわく信仰する神の違いによっては冷静になったり、眠ったり、戦意が高揚するなどもあるそうな
治癒の副産物として生まれてしまう狂信者たち
あの人達全財産を捧げていく人とか、毎朝ビルの前で土下座の形で礼拝していたり、勝手に駅前で勧誘していたりしていて怖い
一度偶然街の中で出くわしたんだけど私に向かって五体投地して祈る信徒がいてビビった、怖かった
なんか私に関する本まで出してる信徒まで居る
普段は「治ってから毎日が楽しいです」とか「人に優しくできるようになってきました、ありがとうございます」とかとても好印象な人なのになんなんだ
レアナー教は体の一部とでも言わんばかりの人達
だけどそれだけにテレビやマスコミで叩かれると攻撃的になる人もいる
テレビでレアナー教を叩く人がいるのは仕方ない
新たな宗教が大きな活動をしているなんてそれだけでも危険視されて当然だ
それに段々とレアナー教内にも危険な集団も増えている
問題を起こすものも多い
そしてもちろん問題はテレビや新聞、SNSでもすぐに広がる
それを見た信徒達は、特に狂信的な人なら親の敵かと言わんばかりにマスコミに激怒する
負の連鎖、悪循環である
だから抑えるのが大変だ
何度も何度も何度も何度も「そのまま突撃すればレアナー教に迷惑がかかる」と言っているのに聞かない
そんな人たちは拘束するしかないし、反省したかと思えば私の知らないところで謎の集会をしていることもあったらしい
今頃陸斗さん達大変だろうな・・・
検察だった人ですら信徒になった途端にテレビ局に向かって「燃やしましょう」って本気で言っていた
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ほんとどうしたら良いんですかね
火薬庫みたいな地球のレアナー教
外国からうちに来てほしいってお誘いも多いし内部の調査をさせてほしいって人も多い
怪しげな訪問も多いけどそれよりも
今頃、国会議事堂や政府機関、テレビ局、新聞、その全てが燃えてないと良いんだけど・・・・・・
徳田さんや陸斗さん康介おじさんの胃が心配だ
今であればレアナー教のトップである元杉神官はいないし、ビルのまとめ役である私、そして城を纏めている遥とヨーコがいない
帰ったら日本国内にレアナー教国ができているかも・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・ありえるな
とにかく地球のレアナー教ですらこうなのだ
こちらのレアナー教は更に危険な可能性だってある
目立たずに行動するべきだろう
この小さな女の子だっていきなりナイフを向けてきた
歩いているだけなのに胃が痛くなってきた
小声で詠唱して胃に少し治癒魔法をかける
「ふーん、あんた本当に神官様なのな」
「そうよ」
「・・・・・襲って悪かったよ、だけどあんたらも悪いんだからな?」
「なんで?」
「あんたどこの田舎の神官なんだよ?修行の旅の最中か?」
「まぁ遠くから来たけど」
こちらを見て目を開く少女、少女だよね?
胸はないけど声も高いし、線は細い
名前もエシャロットって女の子っぽい気がする
「ちっ、今この辺は大変なんだよ、」
「戦争でもしてるの?」
「ザウスキアってどんな国か知ってるか?」
ほとんど知らない
けど少し知ってる部分でごまかす
「勇者様を召喚した尊い国だって聞いてるわ、なんでも勇者様が修業なさった国だとか」
「何だよそれ」
「聞いた話よ」
「・・・・・確かに召喚したのは合ってる、だけどいい国なんてことはまったくない」
このまま情報を引き出したい
少なくともこの子には敵に回して死に装束を着てビルの外のテレビスタッフに向かって突撃しようとするようなうちの過激派信徒みたいな凶悪な敵にはなってほしくない
「そうなの?」
「亜人を物扱いするやつも多いし戦争好きな国だよ、今にも戦争起こしそうな最低の国だよ」
差別どころか物扱いの国ね、それはレアナー教国とは仲が悪そうだ
戦争ね、魔王を倒せたらしいけどまだ敵は残ってるって聞いたのだけどそれよりも戦争って・・・
いや、こちらにはこちらの事情があるのだろう
「どこと?」
「はん、何も知らねーババアだな?・・・・ここだよ」
「は?」
「今ここ、あんたらみたいな少人数の斥候がよく来るんだよ」
それは襲われても仕方ないのかな
いきなり殺そうとしてきたことを許せるわけじゃないけど戦争直前にこんな場所にいるなんて怪しすぎる
いや、この少女も戦おうとしたってことはもう始まってるの?
「狙いは?」
「荒野に出来た新しい領地だよ」
なんとも嫌な場所に来てしまったらしい、遥たちが心配だな
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