第242話 冒険者ギルド


「酒もってこい!!」

「仕事だ!!鹿狩り!1頭で銀貨6枚!」

「前衛募集!加護持ち高待遇!」

「ぐごー!ぐごー!!」

「金がない!!盗られた!!!」



今日も喧騒に包まれた、耳のおかしくなりそうな組合


隣の人間と話すのにも大声ではなさないといけないこともある


声に負けないほどの大いびきで寝てる、なんでこんなにうるさい中、寝られるんだろうか?



魔王討伐前にはここも静かだった


組合の仲間は毎日のように死んで、とても騒げるようなものではなかった


おそらくここよりも魔族領土に近い組合ならまだそうなのかもしれない


うちのギルドは町の組合の入り口がまとめられている



ダンジョンを攻略する冒険者組合


戦争や警護が中心の傭兵組合


魔獣や野の獣を狩るのが得意な狩猟組合



この3つが元の集まりだった


元々この3つの組合は似たような仕事内容でもあるし所属する組合員は掛け持ちすることも多くあった


だからいっその事まとめてしまうといった話になったのだけど街中にも魔物共が現れることもあって商業組合や他の鍛冶組合に薬師組合に魔道士組合などの他の組合も続々と参加した


そうしてまとめられたのが総合組合である


いつでも戦闘職のいるここは街の中でも魔物の脅威が最も少ない安全な場所だ


戦争が終わって魔物も落ち着いてきたため少しずつ専門的な業務は元の組合に戻って行うようになってきた


統率を失った魔物共の襲撃は未だにあるが瘴気が激減したおかげで強い魔物は桁違いに減った



「さっき狩った鹿だ、焼けたし俺のおごりだ!食ってくれ!!」


「「「いいぞー!!!」」」



この街は魔物の襲撃もあって悲惨な過去もあったが今日もここは騒がしい


酒を飲んで寝てるものもいれば商談だと言いつつも賽をふって遊んでいるものもいる


ずっと喧騒が止まずにうるさいが私はここが好きだ


獲物を焼いて食べる焼き場だってある


私も鹿肉の良いところをご相伴に預かるとするかな



騒がしい組合内に見慣れない人がいた


美の神の加護を受けたかのような女性、髪の色は勇者のように黒い


革の装備に盾とあまり見かけない槍を持っている


戦乙女が舞い降りてきたのでしょうか?



「俺にもくれるか?」


「お、おう」


「ねーちゃん見かけねー顔だな、何しにここに来た?」


「俺は登録だよ、この国は初めてでな」


「登録は向こうだ」


「肉ありがとうな!」



女性だけどすごく男らしい


不思議と存在感がある


肉をつかんでバリバリと食べながらこちらに歩いてくる


周りの荒くれ者どもの視線も彼女に集まっている


どこか、名の知れた神の加護でも持っているのか?


あの一帯だけは声を荒げる者がいなくなった



「おっとねーちゃん、登録なら俺が教えてやるよ!」


「ねーちゃん?あぁ俺のことか?」


「そうだ、俺は鉄級冒険者、役に立つ男だ、どうだいきれいなねーちゃん、登録から冒険、危険なベッドの中まで俺が案内してやるよ」



絡みに行ったレザギドは冒険者としての腕は悪くない


加護こそ授かってないが剛腕で敵を恐れない度胸がある


だけど新人や錬金術師や商業組合の新米に絡む厄介者だ


あんなダサすぎるセリフを恥ずかしげもせずに言えるところも駄目なのに本人は全く気がついていない


絡まれた子を助けるか?彼女の魅力にやられた周りの冒険者たちが助けようかとしているのがわかる



「クハハハハ!!!はぁーはっはっはぁ!!ひぃー!!!」


「何がおかしい!!!」


「いやいや、あんな殺し文句なかなかねぇぜ!くくく!笑い死んじまいそうだ!はははははは!」



周りはくすくす笑っている


私も面白くて笑ってしまいそうだ



「この女ぁ!!!」



青筋を立てたレザギドが剣を抜いた



「ゴルルルルルルル!!!!」



入り口から入ってきた大型のミャーゴルがレザギドと女性の間に割って入った


ミャーゴルは人に懐く騎獣の中でも高価だ


賢く、力強く、勇猛に敵と戦い、仲間を決して見捨てない


ただ群れを作る性質から飼おうとすれば多くのミャーゴルを同時に飼わないといけない


数を増やそうにもミャーゴルが安心して過ごせる場所を確保しないといけない、冒険者にはとても飼えない、ミャーゴルといえば野生か貴族、そして軍のものだ


不味いことに見間違いでなければミャーゴルは人の頭を飛び越えるのに空を蹴った


霊獣に近いか霊獣そのもの


女性の服もよく見れば見たことのないデザインだが裁縫がとても細かく洗練されてる


大貴族の令嬢か何かか?


お腹を抱えて笑う女性だが周りは静まり返った


このミャーゴルは危険だ、どう対処しても暴れられれば被害は大きなものとなるだろう



「あぁ、笑わせてもらったよ!もう行っても良いか?」


「あ、あぁ」


「剣をしまえ、うちのルールがお前らを縊り殺す前にな」


「ルルルル!!!」


「ひぃぃ」



レザギドが居なくなり、自然と受付までの道が出来た


組合内は珍しく静かになった


それだけはきっと良いことだろう

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