第204話 ナンパと給料


就職活動帰りなのか、学祭で内定の決まっている会社でもあるのか、みんなスーツだ



「あぁん?ぷっ、お前ら全員スーツかよ、だっせぇなぁ、ははは」



何でキレるかわからない大森だ


今にも喧嘩が始めるかもって思ったけど何が面白いのか笑い始めた



「なぁ春日井、お前もこうやって就活してんの?」


「・・・・・」



こいつはテレビを見ていないのだろうか?


視界の端で「割って入りましょうか?」という信徒さんがいるけど目で止める


こんな奴に関わってもろくなことはないだろうし私なら問題はない


殴り合いなら殴らせてからにしないとね



「俺の秘書にしてやるよ、なぁ俺の部屋で2人っきりだ!なぁ!いいだろ?」


「だいたい「はるねーちゃんどうかした?」



気持ち悪いし鼻息も荒く口が臭いと正直に言おうか迷っていると洋介が来た


神官服じゃないのは珍しい、小さい頃を思い出す



「何だこのガキ?」


「私の婚約者よ」


「こんなガキが?ふっははははっ!ははははははひぃー!!」




ギチィ・・



やっぱ殺そう


拳を握りしめてそう思ったのだけど洋介が心配そうにこちらを見ていて正気に戻った


いかん、やるなら殴らせてからにして苦戦を演じなければならない



「私はお金に困っていないし、よう「え?春日井働いてんの?」



人が話してる途中なのにこの臭ゴリラは・・


ニヤニヤと何が面白いのか笑っている大森



「バイトぐらいだけどね」


「バイトなんかしなくても俺が養ってやるって!なぁ!」


「え?はるねーちゃん正規のお給料貰ってないの?」



ムカつく大森だが洋介は大森に怖がりもせずに聞いてきた


バイト程度と聞いて元仲間たちの視線も少し哀れんだ


既に内定が決まっているものもいるし、私が大病したという事情は知っている


世間の噂であるようにレアナー教の支払金額が超高額で借金生活をしているとでも思ったのか?



「ほら、私は大学来ながらだし、バイト代ぐらいなら貰ってるし」


「でも城の方で鍛えてるし将来はうちで働くんだよね?」


「そうだけど、それにほら、私、病院の壁のお金払っててさ」



私はレアナー教の中でも少し変わった存在だ


奈美のように治癒魔法の仕事を任せられているわけではないし好きに手伝い、好きに鍛えている


ビルを手伝っている時間は仕事として扱われているらしいが自己申告なのでできるだけ減らしている


信徒だけでは足りない外部から手伝いに来てくれる方もいる


信徒の中でも奉仕活動以外でレアナー教内で働く人はいる


私はビルで働いている時間だけはバイト代としてもらっている



レアナー教のお金の管理は康介おじさんに栄介おじさん、詩乃さん、それと徳田さんや田辺さん達が管理していて、いつも洋介に「良いのか?」と聞いている光景が見られる


洋介はお金の管理は無理だ


お金の管理以前に金貨や銀貨と言った異世界の価値観が拭いきれていない


・・・なんで数を数えるのに17の次が1になるのか意味がわからない


お金の管理も雑でお釣りで返ってくるからって支払いを100万円単位で行う



他の信徒には「レアナー教最高指導者である洋介の婚約者」として丁寧に扱われているが私はそれを振り切ってビル内でトイレ掃除や信徒や患者への対応を率先してやっている


そのお金は登仙病院の私が壊した壁代に少しずつ返済している


老朽化が原因ということで片付けられそうになったらしいし仕方ないと登仙院長は受け取ってくれない


どうしてもと言って毎日面会謝絶の病院に行って家族で支払おうとしたのだが受け取ってもらえなかった


聞いた話では既に壁を調べようとした怪しげな集団によって謎の寄付金が入り、高額な医療器具も買えるほどだったそうだ



だけどそれは私の中で道理が通らない



テレビ番組で壁の値段は出ていたしせめてその金額は払わせてくださいとお願いして、それでも断られたので寄付の名目で毎月支払っている


給料の9割を病院に、1割をレアナー教に


幸い、登仙院長もやれやれと利子とか考えなくてもいいと言ってくれているしそもそも払わなくてもいいと何度も言ってくれている


それに私は元々贅沢をする方ではない


化粧などリップと化粧水、日焼け止め程度だし食べ物も母さんの料理は美味しいから外食はめったにしない


たまにラーメンが食べたくなるのとバッティングセンターに行くぐらい


運動不足を感じたらランニングに行く


服もカバンもめんどくさいから安いものをぱっと買うだけ、胸の大きさから下着だけは頻繁に変えないといけないのはめんどくさいが・・・



「いやはるねーちゃんは僕の婚約者だし好きに使っていいよ、はいこれ」


「はっ?ちょっ!?ガキ!なんだどっから出した!!?」


「「「おぉ・・・」」」



食堂の机の上にどかりと置かれたアタッシュケース


開けられたその中にはみっちりと現金が一杯に詰まっている


おぉう・・・・


いつもならすぐに怒るところなんだけどあまりの大金に驚いてしまった



「良いですよね?レアナー様」


<もちろんですぅ、よーすけがいないとちきゅーではやっていけてませんからぁ>


「だって、はい、はるねーちゃん」


<はるかも気にせず使うといーですぅ、よーすけのお嫁さんになるんですしぃ>


「それは良いんですけど・・・こんな場所で広げなくても、そっちにしまって、こっちには入らないから、ね?」



急いでしまってもらったのだが大森も、元仲間のクズどもも動かない


私の力ではないがぽかんと固まったのをいい気味に思う



「行こっか」


「わわ!?」


「ほら早く!」



洋介のおでこにキスして手を引いてその場を後にした

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る