第203話 牢獄に戻った日
起きるといつもの部屋だ
コンコンとノックされているので外に出るとAがいた
「どうだった!!?」
「最高の1日だった」
「は?」
部屋に招き入れてアンケートの内容や娘たちにちゃんと会えたことや体験した超豪華な食事に遊園地、プールにトロッコなどなど夢のような一日のことを話した
娘たちに会えたことを喜んでくれるのかと思ったのだがヒゲを撫でながらうつむいたA
「どうかしたのか?」
「あぁ、お前の話で考えたいことがあってな、もっと話してくれ」
「?あぁ」
しばらく話すと難しい顔をして下を向いていたAが顔を上げた
渋い顔をしている
「そうか、とにかく娘さん達が元気そうで良かったな」
「あぁ」
「これで確定した、この牢獄の時間は狂っている」
「どういうことだ?」
「まぁ聞け」
ここに入ってくる人間は基本的に入る前の人生を詳しくは話さない
とはいえ出る方法もなく、絶望を叩きつけてくる日常の生活
希望もない生活での共同生活だ、いつの間にかポロポロと過去のことも聞ける
その中で不思議なことがある
牢獄に入れられた日がおかしい、新しく来た人間と長くいる人間の体感時間が間違いなくずれているのだ
俺たちはもう2年ぐらいはこの牢獄に囚われている気になっている
この牢獄は外の時間が全くわからない、外を知る方法が全くない
太陽も、月も、空も見えず、雨の湿度や風もない
季節すら感じることはないし外部の振動などもわからないことから時間の経過が全くわからないのだ
刑務所で独房に居たとしても食事の時間や朝か昼か夜かぐらいはわかるかもしれないがここはまるで異世界だ
入ったらそれまでの地獄だ、管理者側にとって我々の時間の感覚など必要もないのかもしれない
感じられるものといえば腹が減ることまずい飯を食わなきゃならないことくらいだ
この牢獄のサイクルは寝るか仕事を終えるか一定時間でリセットされる
数年はここにいると思っているのだが外では時間が全然過ぎていない
育ち盛りの娘もさぞ大きくなっているかと思えばそうじゃなかったし「小学校のお祝いできなくてゴメンな」と謝ったら「小学校はまだ行ってないよ?」と笑って言っていた
小学校に行って彼氏でも出来ていないかと心配だったのだが・・・
時間の進みがおかしい、そういう疑問はあった
だけど「時間が正しく進まない」なんてありえないし時間の感覚の狂った新入りだって同じぐらいの日付で捕まって石化し、別の場所に保管されていたという可能性もあった
石化も全てが完璧というわけではない
睡眠中の石化はおぼえていなければ一瞬で時が過ぎたように感じることもあるが暴力後などの懲罰の石化はずっと見えているし聞こえている、が一定のサイクルで場面が自室に切り替わることもあった
会った娘たちが偽物である可能性や幻を見ていたなんて可能性もある
低予算映画なんかでよくあるように俺たちは別の惑星の内部に閉じ込められている可能性だってある
俺が1日を過ごしている間にAは10日ほど過ごしていたそうだ
お陰で俺の生存確認のために部屋に何度もきていたそうだがドアには名前もなく曲がり角から何番目でしか判断できないために隣人には迷惑をかけまくっていたらしい
もしかしたら部屋が減るなんてこともあるし両隣にも毎日確認したそうだ
この牢獄内では死亡した人間はいない
もしも死んだ人間がいるのならそいつの部屋が残るのかは不明だ
色々話していると時間が経ってしまった
アンケートの結果も知りたいし牢獄内の何かかわってないかといつもの日課をこなすことにした
相変わらずトイレは劣悪、スープは吐きそうなほど不味い
だけどいつも通り、ではないな
いつもなら古参の俺には水をいれてくれるのは速いのだが今日はムスッとしている
「おらよ」
「あ、あぁ」
「ちっ」
ストレスでも溜まっているのかと不思議に思いつつも作業スペースに行く
前は何を作っていたんだっけ?あぁ、大きめの神像だった
木工スペースの中でも熟練した人間に与えられる個人スペース、彫刻刀やノミやカンナが揃っている
この場所には俺しか入れないし、たった1日なのに娘たちとの体験が濃いかったせいか懐かしく感じる
自作の椅子にAの手製のザブトンをうまく敷いて座る、きちんと並べられた彫刻刀を取り出す
「「「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!???????」」」」」
長く付き合ってきた木工スペースの仲間たちが目玉が飛び出るほど驚いてこちらを見ている、絶叫で少し鼓膜が痛い
「え?」
「あんたGか!?何があったんだ!!!??」
「新人じゃねぇのか!??」
「その髪とヒゲどうやってんだ?!」
「別人だろ!?かわれその場しょグガっ!!?」
「絶対別人だ!ふざけやがって」
「死んだかと思ってたぞ!テメー!!」
あっ・・・
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