第191話 牢獄でのヘアカット


シャッシャッシャッ・・ジャキ・キ




なにかのポイントでどうにかするのかと思った


俺はここで長くいるしだいたいのことは把握している


そんな俺やAが方法を知らないのだ


あとから来たRよりかはここに詳しいはずだが、俺たちには思いもしない方法があるのかしれなかった



彼は髪を後ろで束ねているがヒゲは生えていない


そういう身だしなみを整えている連中はいるにはいるがちまちまと爪切りで切ったり抜いたりしていたはずだ


彼らよりもツルツルに見えるし期待が湧き上がる





だが答えはすぐ近くにあったようだ



Rに連れられてきたのは開かなかったドアの一つだ


祈りの間や大広間にはドアにマークがある、ここのマークは長方形に斜めの波のようなマークだ


全く意味がわからない、開くこともないドアの一つだ


個人の部屋は誰の部屋という表記もなく廊下から何番目としか覚えることは出来ないから困りものだが開かない謎の部屋というのも興味をそそられて困る



中に入ると料金表があった


ここではポイントを200-550ポイント支払うことで髪を切ることが出来る


それとハサミや道具が散らばっていて、床にバケツサイズで小さな噴水のように水が溜まっているだけ



「こ、ここは!!?」


「散髪できる場所ですね、ここに来たくはなかったんですが・・・」



料金表を見る


200ポイントで髪を切る


250ポイントで髪を切る+シャンプー


300ポイントで髪を切る+シャンプー+ひげそり


500ポイントで髪を切る+シャンプー+ひげそり+髪の色を換えることが出来る


550ポイントで髪を切る+シャンプー+ひげそり+髪の色を換えることが出来る+整髪料付き



今の俺に必要な場所だ


なんでやらなかったのかと聞くと納得した


免許を持って働いていたのは昔の話だし、このポイントはぼったくりでここでの暮らしに軋轢を生みかねない、使ったことのない薬剤もあるし鏡もドライヤーもない、髪を自然に乾燥させる時間を考えれば他で働いたほうがポイントが高そう、日本人しか切ったことがないのに外国人の頑固そうなヒゲを相手に剃れる自信がない、薬剤によるアレルギーの心配もある、もしもここの商売がうまくいってもケンショーエンと言う手の病気に昔かかっていたのに数百人もいるここの人数を捌くことは出来ない


それと彼は髭が生えていないのは剃っているのか聞くと彼の場合は単にヒゲが生えない体質らしい



なるほど、納得だ



Rは失敗してもいい、ここのことを人に話さない、値段に文句を言わないという条件でやってくれることになった


彼にとってはマイナスだらけだ、だけどリスキーなのにやってくれる


友達とはいいものだ


彼にならもっとポイントを払いたいが妻や娘と会う時にポイントは役に立つかもしれない、気軽には減らせない



全裸になって石の床に座り、髪を切ってもらう


道具はハサミだ


爪切りとは桁が違うスピードで毛が落ちていく


何百回も爪切りでちまちま切っていくのとは桁が違う、手が痛くなるんだよなあれ


鏡がないのでどんな状態かはわからないがRは信用出来る



「へー、アメリカだと短髪が多いのはそんな理由があるんですか」


「あぁ、日本人みたいにまっすぐのやつだけじゃないしな、なにもしないのにAfroいやアニメーションボンバーヘッドになるなんてやつもいるぐらいだ」



世間話をしながら髪を切っていく、不思議と話してしまう


電動バリカンもないし椅子もないここではこの切り方はRは辛いだろう


Rは中腰で俺の髪を切ってくれている


もしもこの一件が終わって帰ってこれることがあったら椅子を贈ることにしよう、出来るかは分からないが



「ボブ・たっとれ?あぁボクシングのチャンピオンですよね?日本でも有名ですよ」


「日本でも有名なのか!彼は・・」



軽口を話していたのだがいよいよ顔だ


体に触れる落ちた毛で身体が痒い、気持ち悪いぐらい毛が落ちているな


慣れない道具なのだろうしブランクもあるのだろうがやっているうちにスムーズになっているのがわかる


泡立てられたもっこりした白い泡がヒゲを覆い、いよいよヒゲ剃りだ



ジョリッ・・ジョリッ・・・



あぁ気持ちいい、肌に触れるカミソリが顔のヒゲを落としていく


上を向き続けるのは辛いところがあるがそれを言うならRはずっと中腰で作業をしてくれていてたまに腰を伸ばしている


顎の下のヒゲもツルツルにしてもらえた、双方体勢は辛かったがカミソリで血を流すなんてこともなかった



「後はシャンプーですね」


「あぁ」



ヘアウォッシュ、いやシャンプーだが自分でできるかと聞かれてやってみる


日本では店員がやるシステムだが頭皮がデリケートだったりこだわりのある客が自分でやることも稀にだがあるそうだ


それよりもどこまでがここの謎ルールに引っかかるかの検証も兼ねている



「どうせならシャンプーで身体洗ってみたら?」



言われてみて全身を洗っていく、どうせ全裸だ


牢獄で体を洗うといえば売ってる固形石鹸といくらでも使える水で体を洗うことがある


だけどこんなにいい匂いはしない


なかなか泡立たないが数回もすれば泡立ってくる


タオルはなかったので着ていた作業用のボロのシャツを破いてそれで全身を洗った


Rも背中を磨くのを手伝ってくれるし小さな手桶で何度も水をかけてくれる


もうRもビチャビチャだ



生まれ変わったように気持ちがいい



払ったポイントは550ポイント、だが髪を染めるわけではない整髪料のおまけ狙いだ


髪なんて染めれば娘にわかってもらえないかもしれない


自然乾燥で待つ間も何かしら話していた


Rと会うのも最後になるかもしれない



「ありがとうR、もしかしたら帰ってこれないかもしれないがそのときは許してほしい」


「気にしないでくれG、それとこの2つを持っていくといい」



手渡されたのは謎の包みに入った何かとサイズは小さいがセイハツザイ、ヘアプロダクトだ



「こっちのはなんだ?ラムネ?」


「日本じゃ散髪の後に配ってる店もあるんだ、サービスだよ」



お菓子のラムネは知ってるような気がしたが見たことのない菓子だ、それも物販に並ばないものである


Rは「子供用のご褒美だよ」なんて苦笑しているがじんわりと心にしみる、持って行けるのなら娘にこれをあげてみようかな



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