第153話 悩み


はるねーちゃんが怒ってくれたのは僕のためだ


でも、だからどうしたらいいかよくわからない



「どうすればいいんですかねー」


<好きにすればいいと思いますぅ>



あまり昔のことはあまり覚えてない


自動車の事故だ、僕も死んでいてもおかしくなかった


たまたま僕は召喚されて、たまたま治してもらって、たまたまとーさんとかーさんが僕に憑いてて、たまたま僕に機会があった



だから頑張れた



修行も旅の道のりも色んな事があった



神様たちに加護をもらって、それでも頑張りではどうにもならないとこで何度も挫けそうになった


頭では治せるってわかってても体が勝手に「これ以上は無理だ」って言うみたいに固まったりね


旅でも助けられる命があって、助けられない命もあって、喜ばれることもあれば石を投げられることもあった


せっかく鍛えて使えるようになった武器も加護が強くなってすぐ壊れるようになって・・・戦いにくくなって苦労した



魔王は強かった



魔王軍の幹部たちを引き付けてもらってるうちに大岩を【祝福】して収納に入れて、空からいくつも落とした


結界と城の大半を破壊、吸血鬼の魔王だったから【清浄化】を打ち込み続けた


手応えがなくなったと思ったから見に行ったらまだ生きてて、斬り合って、やっと倒せた


他の魔王幹部の方が強かったけど傷だらけになった、もっと【清浄化】を使うべきだった


神様たちの報酬、とーさんとかーさんの復活は僕の体の一部を神様たちが使って作ったものだけど魔王討伐の後すぐには身体に魂が馴染んでなかった



だから一度、異世界を見に行くことにした



魔王の討伐の後は凱旋があると聞いていたけど貴族から逃げたかったってのもある


だいたいのことで僕は死なないし問題には突撃してどうにかしてた


でもそれを貴族にやると凄く面倒だった


まぁ解決できる場合も多かったから直談判はよくやってたけど今はもう魔王討伐っていいわけ、じゃない、大義名分?も使えないから


国に帰って貴族たちの結婚騒ぎに巻き込まれるのも嫌だったから異世界に一度行くことにした



異世界は、地球はどれぐらいの時間が進んでるかわからなかったしどんな場所かもそんなに覚えてなかった


もしもこちらのように瘴気の影響が出ているなら他の世界のように生物が絶滅していても不思議じゃない



帰っても特別何をしたいわけでもない


「学校にいかなきゃ」ってちょっと思ったけど伯父さんを見て年月が経っていることがすぐにわかった


学校には居場所はないし、僕がやらなきゃいけなかったことは?それまでは魔王討伐、それだけ


だからレアナー様がついて来てくれて良かった


各国での布教活動が心に片隅に残っていてよかった


布教するのも人を助けるのも当たり前だけど、もうそれしかない



地球のご飯は驚くほど美味しくて、色んな思い出が浮かんできた



小学校の運動会でビリで泣いて、とーさんとかーさんと鯵を釣りに行ったり、鉄棒をはるねーちゃんに教えてもらったり


平和なことしかしていなかった


平和で、人を傷つけちゃだめで生き物を殺すなんて絶対だめな世界だった


だけど僕は魔物も獣もいっぱい殺してきた、もちろん人も



学校での思い出も、とーさんにかーさんとの思い出も、はるねーちゃんとの思い出も怖くなってきた


昔みたいにはるねーちゃんとは一緒にいるのが当たり前って思ったけど、それははるねーちゃんの都合を考えてない


黒葉にヤクザを殺すのを止められて、自分が間違ってるってわかった


ヤクザの前に立って震える黒葉が正しくて、僕は間違ってる



長命種族と短命種族の結婚は不幸を生みやすいってレアナー教で知ってた


価値観や判断基準が違いすぎてもそうだ



だから、はるねーちゃんのことは一緒にいないほうがいいって考えた



だって吉川とかいう彼氏さんがいるならそっちのほうが幸せだと思う


はるねーちゃんには幸せになってもらいたい


・・僕は、まともじゃないし



治癒したのも僕がはるねーちゃんを治したかったんだ


でも、僕から別れたら僕は、自分でまともじゃないって認めるみたいで嫌で、いつも一緒にいたはるねーちゃんにまで嫌われたら僕は異世界に、地球に居場所はないって、そう思ってた



いつの間にか僕はレアナー教も神様たちも魔王も、とーさんたちを生き返らせる手段じゃなくて生きがいになってたって気付いた


それもあって最後に残った布教は楽しかった



うまく話せてるかはわかんないけどボブと話すのも楽しかった


こっちに友達なんて1人も居なくなってたし、何でも話せる友達だ


周りの批判が多くなっても頑張ってたけどとーさんたちのことを聞きに異世界に帰った、いや、行った


本当ならはるねーちゃんに嫌われたり、怖がられたりしてもおかしくないって思ってたんだけどなぁ


オークのことは予想外だったし、はるねーちゃんたちと本気で付き合うなんて思っても見なかった


だってとーさんたちが生き返ってるかを聞くのにわざと辺境の方で待ってただけだしね・・トイレ事情もあったし



レアナー教国に直接だと、色々結婚結婚ってめんどくさそうだし、やつもいる



召喚してくれたザウスキアなんてあれしろこれしろあっちに行けなんて指示がうるさくてたまらなかった



とにかく父さん達が治ってよかった



本当に嬉しくて、会ってこれまで僕がしてきたことをどんな顔をされるのか怖かったはず・・・なのに顔を見て吹き飛んで泣いてしまった


とーさんたちにはあの場で神様たちが伝えたのか見ていたの「ありがとうな、さすが俺たちの息子だ!」って言ってくれた



また異世界に帰って、いや地球に帰って、でもやることって言うと布教だ



レアナー教が受け入れられるように頑張った、でも邪魔してくる人も多くて本当に腹立たしい


十日寝ないなんて旅の最中は楽だったんだけど、ただ魔物に向かっていって、ただ殺せば良い生活とは違ってすごく疲れるんだね、色んな人が来るし



治した人にはその人達の人生があるし、その助けになるのは嬉しい



黒葉やはるねーちゃんが大学の話をしたり、信徒たちの話を聞くと『将来』のことをよく話している


治ったら何をしたい、将来どうしたい、これからはどう生きる・・と



僕にはそれが何もなくて胸がちょっと痛かった



ただただ戦って後の殆どは案内の人に任せて、布教は手伝いと自分のやりたいようにするぐらいしかしてなかった


めんどくさい問題は勇者だからって無理やり終わらせたりした事もあったけどこっちで僕は勇者ではない、それと神殿ではえらい立場だけど神殿長でもない


いざ神殿の経営をやってみても問題だらけ


ちゃんとした経営なんてできるわけないのにうまくいかない


向こうのようにレアナー様が讃えられて当たり前じゃない、レアナー様が悪く言われて、僕のせいだ



でもやり方も知らない



ただ目標に進むだけで、ろくに教育も受けてない僕ができないことをしている


でもだからって他にできることもない


将来なんて僕がそんなのとーさんたちのことばかりしか考えたこと無いのにどうすればいいんだよ



地球も異世界も故郷とはあまり思えなかったしどっちが故郷かもわからない



どちらの世界でも異物のような、受け入れられてない疎外感?っていうのかな仲間はずれのような、居辛さがある


怖がられたりすることもよくあるし、旅の途中みたいにはるねーちゃんが僕のせいで石を投げられないかと恐怖が残る



漢字や算数を教えてもらってるけど難しいしまだよく間違える


スマートフォーンを見ると僕に-人殺し-ってコメントが来ていた時は、本当に胸が痛かった



正しいはずだったのに、正しくなくて、でもやったことに取り返しはつかなくて、胸がキリキリして

 


布教もレアナー教のことを悪く言ったりする人に怒って吾郷のところに行った



治癒は喜ばれるけど本当にそれだけでいいのかな、人に悪く言われることも多い


議員の人にも改めて「まともじゃない」って言われて、わかってても悲しかった


だからはるねーちゃんが怒ってくれても僕が正しいのか自信が持てない



はるねーちゃんは昔からだいたい正しい



はるねーちゃんが正しくない僕をかばって、はるねーちゃんが嫌われるのは嫌で、でも嬉しくて、どうしたら良いか分かんなくて



・・・ままならないなぁ



<よーすけは無理しすぎなんですぅ>



駄菓子を選んでるレアナー様に言われた


こっちは銅貨や銀貨は使ってなくて銅貨17枚で半銀貨1枚半銀貨2枚で銀貨1枚、銀貨6枚で金貨1枚といったものではない


金銭感覚の勉強だとはるねーちゃんと黒葉に連れられてヨーコとレアナー様と駄菓子を選んでいる、ぴったり200円分を買うのだ



<今を楽しんで、できることをちょっとずつ増やして、誰かと愛を育んで、子供を作って死んでいく、それが人ですぅ>



そうなのかな


たまに神様達は人の心を覗き込んでくる



<だから、よーすけはいまのまま、やっていけばいいんですぅ・・・これはなんですか?きれいですぅ>


「ゼリーです」



その人に必要なことをずっと言ってくれる


まだ、難しいけど


けど、うん、そうだな、やれることをやるしかないんだもんね


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