第129話 おねだり


今日も野良仕事をする


小石を拾って畑から出す


みずみずしく野菜が育っていくのは気持ちがいい


最近は体が言うことを聞かなくなってきてるのも感じる、いい歳だ、仕方ない


野菜が育っていくのを見れるのも楽しいがそれよりも育ったものを家族に渡していくのが楽しい


儂の家系は代々この地域の名士だ


親族はこのあたりに多いし、毎日のように過去に世話をした人達が足を運んで顔を見せてくれる


顔を出してくれた人に野菜をやるのも楽しい



儂は運が良かった



長い人生で、目立つ立場に産まれて、人を助けられる機会も多かったし自分がなにかやってもしまっても人に助けられる縁も多かった



長生きすれば良いことも悪いこともある


人に騙されたり泥棒に入られることもあった


何より悲しかったのは息子夫婦と、孫が死んだことだ


事故の相手は自分が世話をしていた運送会社の社員だった


原因はトラックの整備不良でブレーキが効かなかった


整備直後のトラックというのだから開いた口が塞がらない




単なる整備のミス、だがそのミスで息子たちは死んだ




最近は携帯を持つのはやめた、ニュースを見るのも知り合いの訃報を聞くのも悲しい


働いているときはテレビも新聞も携帯も毎日見ていた



だけど息子の事故を見てから全部やめた


携帯はまだ持ってるが机においていて充電器に繋いで埃を被っている


顔を見せてくれる人にはタイミングが合えばで良い


大事な要件なら顔を見せて貰って話せば良い


今でも結婚式に誘われたり色んな会の会長にどうかと言われる



近頃、親戚たちがなにやらうるさいが世間とは相変わらず忙しく動いているようだ



熱くなってきて夏の野菜が美味しそうだ


トゲの尖った新鮮なきゅうり、大きく育ってきたスイカ


湧き水から畑に水をまく、今日も汗をかいて気持ちよく寝られそうだ


汗をかいて、風を感じ、季節を感じて、野菜の成長を見る



儂は死ぬまでこうしていたいと思う








人の声がしてそちらを見る


ここは私有地だし周りの山もうちのものだ


車の音もしなかったしハイキング客でも迷い込んできたのか?逆光でよくは見えないが結構な人数だ



「ただいまー」



その声は聞き覚えがあった


忘れるはずもない、孫の中でも唯一の男の子


親族は女の子ばかり産まれて、あまりに可愛くて儂や家族が構いすぎて喧嘩して、わかれて、その後に死んだ孫



相変わらず小さくてなにか光ってるようにも見える



「おか、えり・・・・」


「いえーい、父さん驚いたー?」


「ご無沙汰してますぅ」



息子夫婦もいる


ボロボロと溢れる涙を止められなくて、これは夢か?


康介も横にいる


癌で闘病中で病院には来てほしくないと言われていた


入院前よりも一回り肉付きが良く見える



孫をこの胸に抱きしめる



夢でも良い、孫のぬくもりを感じて・・・・





「じーちゃん臭い」


「ガーンっ・・・!!!」










心臓が口から飛び出したかと思った、じーちゃんショックである



思わず離してしまった、とにかく康介に話を聞くと魔法がどうだので治ったらしい


なにかの怪しげな宗教にでもかぶれたか?



「とにかく宴会じゃ!!」



その日のうちに親戚たちを呼べるだけ呼んだ


魔法とやらも本当で洋介はなにもないところから料理を出しまくっていた


可愛らしい見た目でもう結婚してたり婚約者もいるらしい・・・!やりよるの!わしの孫!!


もう暗くなったが集まったみんな喜んでいる


部屋に入った大きなルールって巨大な猫や栄介には驚いて腰を抜かす者もいたが洋介が治していた


よく見えないが光ってるのは洋介を助けた神様らしく、神棚においておく


ついてきてる人には洋介の部下の人もいる・・・!凄いな洋介!さすが儂の孫!!


それにしてもこの夢長いの



「ところでじーちゃん、欲しい物があってさ」



もじもじする洋介、なんだ、いまなら何でもやろうと思う


おねだりされるってなんか可愛いの



「じーちゃん、実は・・・」


「ふむ、なんじゃ?言うだけ言ってみるとええ」



康介に背を押されてる洋介、孫のおねだりはありじゃな


康介はおねだりしないし、栄介のおねだりは可愛くない


何がほしいんじゃろ?今なら銀行から金をおろしても良い


ピコピコか?ピコピコがほしいのか?



「山、欲しくてさ」



儂、ちょっと予想外

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