第97話 特別な勇者


「遥、元杉神官、私と結婚してください」



そう言われて僕の頭を拳で挟んでぐりぐりしていたねーちゃんが固まった


黒葉はねーちゃんのように着ているのに体の線が出るようなドレスではない


黒葉のドレスはお腹とか丸見えで露出も多いのだが背もあってとてもかっこいい



「な、奈美?」


「わたしは、二人が大切、お願い、形だけでもいいの」


「な、何いってるのかわかんないんだけど」



これは・・・


黒葉についていた神官がいらないことを言ったのかな?


僕が目を向けると黒葉についていた神官たちがどこかに行ってしまった



「私じゃなくてもいいの、私は2人が好き、でも、なんだったらそこらの神官さんたちと遥達が結婚したっていい、お願い、私は2人が不幸になるなんて見たくない」


「何よそれ」


「聖下、御身の加護のことをお2人に言ってはないのですか?」


「うん、心配させたくないしどうなるかわかんないじゃん」


「相変わらず洋介聖下は・・・良いでしょう、会場の用意もありますしこちらにおいでください」



え、やだ



そう言って逃げようとしたがそれは許されないらしくねーちゃんに片手で荷物のように連れて行かれた


別に隠していたわけじゃないが僕の秘密を知られてしまった


僕はこちらに来て、勇者になるしかなかった


それも普通の勇者では足りない


普通の勇者だったら僕の前に召喚された10人以上の勇者や数知れないほど多くの英雄たちと同じく死んでしまうだろう


いや、屈強な勇者たちに比べて来たばかりの僕ならもっと簡単にあっさりと死んでいたと思う


僕はまともな勇者のように最前線で戦うタイプではない、そもそも11歳で子供、華奢でこちらの子供と比べても貧弱


刃物すら持ったことのないような有り様だ



神々は僕を哀れんだ



僕が召喚されたのには意味があると先を見通す神が言った


召喚には条件がある


「魔王を倒しうる可能性を持った存在」それを勇者として

選び、それを召喚する



だから僕にも可能性があるはずだった



そして見通す神は、僕が敗北した場合はその先に勇者が召喚されることは二度とないとも言った



それは人類の、そして神々の完全な敗北を意味する



当時の人々は追い込まれていた、16度召喚された勇者が魔王に殺されるなんてこれまでになかったことだ


魔族の勢いは収まらず、人々の生存圏は3分の1以下に追い込まれている


このままでは人類は敗北するだろう


さらにそれは人々が信仰を失い、神々が消滅することを意味する


この事態に、なかなか人界に干渉しない神々も動くことを決めた


今でさえ自分たちの英雄や勇者たちは負けてしまっていた



それを超える何かが必要だった



それまで動きのなかった神でさえ、多くの種族にも加護を与え、魔王を討ち取らんと動いてくれた



神様達は僕の助けをするための援助を惜しみなくしてくれた


僕に試練を与えてそれを乗り越えることで加護をいくつも貰った


まず運命の神から困難苦難を含め、自分も周りも数奇な人生を歩む呪いとも言える加護を受けた代わりに器がひろがった


レアナー様は僕の最大の守護神でどんなになっても僕を治してくれる


どれだけ痛めつけられても治る


瘴気をまとった爪で引き裂かれようとも、それこそ下半身と分かれても復元するような自己治癒能力を得た


こちらに来て1年は常識を学び、2年は各地の神殿を巡って可能な限りの加護を得た


成長し、器が広がるたびにどれだけの加護が受けいれられるのか



この身を焼かれてでも試した



僕には強い戦神の強い加護は合わずに受け入れられなかった


相性が悪かったのか試してみて。ちょっと全身の血管が破裂するぐらいでよかった


戦神は無理だったけどそれでも別の神様達から様々な加護を受け入れることができた


加護は無理という神様でも祝福や神具に聖器を頂いたりもできたので旅ではすごく役に立った



加護を授かるのには制限がかかることがあったりもする


例えば「同じ教徒同士で戦うな」とか「生き物を無為に殺すな」とか


子供を多く作れとか、羽のあるものを大切にしろとか、一週間に一度は甘味を口にしろとか


神殿に貢献しろとか


僕の場合はある程度神様同士で調整してくれてるみたいだが面倒事も多い



一つの加護だけでも人の枠を超える


そんな加護をいくつも持ってる僕はもはや人間の形をした何かでよく正気を保ってるとまで言われた、いや僕はまともだが?


まぁ僕はもう人間の枠ではなくなっているのはわかってた


この世界では加護を一つでも受けていれば邪神や悪神でもない限り、多くの人々に求婚される


結婚することで加護はある程度伴侶や子に引き継がれる


加護によって得られた能力、寿命、名誉、権力、領地などが引き継がれる


本格的に魔王討伐の旅が始まるまでは嫌になるほど結婚結婚と周りに言われていた


僕の上司なんか隙あらば僕の布団に入ってこようとするし、そのためだったら天井から忍び込んできたり・・完全にホラーだったなぁ


僕からすれば魔王討伐の前に加護が減ったりするかもしれないのは意味がないし本気で逃げた


小人族領土では僕の都合もあった


僕みたいに何十も加護を入れた人なんていないんだからどうなるかわかんないのに



神官たちは特に僕の寿命について気にしている


加護によって試練の結果、腕がなくなるものもいれば寿命が半分無くなるものだっている


逆に長命種族の長く生きるものもいれば、運が良くなるものもいる


加護を受けた段階で人間の枠から飛び出てしまう、何もしなくても寿命が長くなるか、短くなるか、全くわからない


とにかく結婚を利用して加護をどうにかしようというのがレアナー教の目的らしい



「じゃあ神様達が加護をやめれば洋介はまともになるんじゃないの?」


「僕はまともだ」


「加護を人間都合で止めていただくなんてとんでもない、恩寵や祝福ならともかく神の怒りをかいますし、よしんばできたとしても廃人ですな」


「話はわかりました、洋介と奈美と3人にしてください」


「わかりました、ゆっくりお話しくだされ」




そう言って深く一礼して出ていった神官、なにか企んでる?



おい!3人がここで話し合いしてる!逃げられないように、わかってるな! 



なんてドアの向こうから聞こえたと思ったら窓に牢屋の格子のような鉄棒が一斉に現れ、ドアをガタンガタンチャリチャリとなにかしてることはわかった



「ねぇ、なんで、私に黙ってたの?」

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