異世界へ行く方法を試してみたら、マジで行けた話

古賀コアラ

第1話 エレベーターで異世界に行けるらしい

『エレベーターで異世界に行く方法』


 そんなタイトルのコピペをネット掲示板で見た吉田修 よしだ おさむは、


「マジ!? 死んで異世界転生しなくても異世界行けるって事かよ!!」

 

 と歓喜の声を上げた。

 

 異世界転生を題材とした小説やアニメにドハマりしていた彼にとって「異世界」という単語はもう既にファンタジー世界と同一であった。

 どれくらいドハマりしていたかというと、毎日真剣に異世界に行ける方法を探って実行していたくらいである。

 

 どこかの裏路地が異世界への道に繋がっていないかと、そこいらじゅうの細道という細道を練り歩き不審者として通報される。

 ブラック企業に勤めて過労死で転生しようとありとあらゆる会社に押しかけ

「ここは過労死するくらい働けるブラック企業ですか?」

 と聞きまくり、テコでも動かぬ勢いで居座るため通報される。

 トラックに轢かれそうな子供を助けてその代わりに轢かれ、ご褒美で神様に異世界に飛ばしてもらえないかと小学校の通学路周辺をウロウロして不審者として通報される。


「お前いい加減にしろよ」


 最初はやんわり注意していたお巡りさんも、最終的にはこのセリフを修に吐き捨てた。本当にご苦労さまです。


 ともかく、努力の方向性が完全に狂人のそれではあったが、それほど彼は日々本気で異世界に行くための努力をしていた。

 もはや危険な場所をうろついて通り魔にでも刺されて死ぬしかないのか。でも刺されて死ぬのはやっぱり怖いよなあ、とおそらくこの世で最も意味のわからない葛藤をしていた最中に、

『異世界に繋がるエレベーター』

という一文を発見したのだった。

 

 修が見つけたそれは、いわゆる異世界転生的なファンタジー世界へ行ける方法という訳ではなく、もっとゴリゴリのホラーな感じの異世界へ行く方法として広まっていたものであったのだが、修はそんな事考えもしなかった。

 これまでの彼の行動で分かる通り、修はアホだからである。

 なんでも掲示板の情報によれば、エレベーターで異世界に行けるらしい。  

 その方法とはこうだ。


 まず十階以上のビルのエレベーターに一人だけで乗る。

 そしてエレベーターに乗ったまま特定の階のボタンを順番通りに押す。

 そうすると五階に着いた時に若い女が乗り込んでくる。その女は人間ではないため、話しかけてはならない。

 次に一階を押すと何故か十階にエレベーターが上がっていき、到着した場所は現実世界とは全く異なる世界である……という都市伝説である。


 そんな恐ろしげで不気味な方法を、修は完全にファンタジー的な異世界に行けると思い込んで実行に移したのだった。


 実行の際に途中で他人が乗り込んでくると失敗する、という情報も添えられていたので、修はなるべく他の人に出会わないよう、草木も眠る丑三つ時に一人で近所で一番高いマンションへやって来た。

 

「いよいよここから俺の冒険が始まるんだな……!」


 緊張した面持ちで佇む修。その眼差しは彼の人生の中で最も真剣なものであった。

 もっと本気にならなければならない場面があるだろうに。

 

 まぁそれはともかく、異世界に行く方法を試すためにはまずマンションのオートロックをどうにかしなくてはならない。修は一旦マンション周辺をぐるりと回ってみることにした。


「うん。ここなら登れそうだな」


 マンション一階には侵入防止の為の柵が設けられているが、二階にはその柵がないという事を確認した修は、なんとマンション二階までよじ登る事にした。


「いつかやって来る異世界召喚に備えて身体鍛えておいて良かったなあ」


 熟練の下着泥棒もかくやという軽やかさでヒョイヒョイと壁をよじ登っていく修。その身体能力を活かせる場がもっとあるだろうに。


「よーし。やるぞ……!」


 かくして無事にマンション内へと侵入した修はエレベーターへ乗り込み、掲示板に載っていた方法を書き写したメモを読みながら実践する。

 ポチポチと指定されたボタンを押し、順調に階を移動していく。幸いなことに途中で乗り込んでくる住人はいなかった。

 そして問題の五階へ向かう。噂が本当であるならば、ここで女が乗り込んでくるはずだ。

 ドキドキしながら修はエレベーターの扉が開くのを待った。普通に考えるなら五階には誰もおらず、ただの都市伝説だったという事で終わるはずなのだが……


「どーもー、お疲れ様でーす」


 扉が開いたその先には本当に女が立って居て、修に挨拶をしながら乗り込んできた。ここまでなら偶然住人が深夜にコンビニでも行こうとエレベーターに乗ったということも考えられるのだが、修のテンションはうなぎのぼりだった。


(き、きたぁぁぁぁ! ついに待ち望んでいた展開がぁ!!)


 修の興奮の原因は彼が異世界バカの為ではなく、彼女の頭部にあった。

 これに関しては彼の興奮も仕方のないものであった。


 なぜなら、 スーツ姿のその女性の頭部には、からだ。

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