第9話


 9話


「もっと柔らかく動け。」


 それは俺が踊り終わったその時であった。おじさんの方に行くと、待っていたように言われた。


「柔らかく?」

「あ~どう説明すればいいんだ?・・・まあ、笑顔で踊ってみれば良いんじゃねえか?」


 笑顔か~。確かにさっきは真剣に踊っていたから真顔だったよな。

 笑顔なんてかけらも考えていなかった。・・・でも、それをやってもおじさんの様なダンスが出来るとはおもえないんだけどな。


 なんかもっと違う・・・おじさんが行った通り「柔らかい」感じが足りない気がする。


「まあ、もういい時間だ。着替えて来い。」

「ありがとうございました。」


 まだ踊り足りない気がするが、もう結構時間が立っていたみたいだ。それに、体力ももうほとんどないから、踊ろうとしても求める動きは出来ない気がする。

 まあ、ここまで動けたのだからよかったのだろうか。 


 俺はぼーっとしながら、更衣室に行くと、丁度練習をしていた人たちが着替えているのか、人がいっぱいで、入ろうとすれば入れるが・・・男臭そうで入りたくない。


 しょうがないので、適当に歩く事にした。

 スタジオと更衣室にしか足を運んでいなかったので、探検をする感じで好奇心がわいてきた。



 ☆


 何も無かった。・・・いや、何かあると思って歩いていた訳では無いけど、、、それでも面白そうなものがあったらいいなと。


 それでも、時間は潰せたからいいかな。・・・スマホは更衣室に置いてきていたから何分経ったかは分からないけど、それでも15分くらいは立ったでしょ。


「あ!きみ晃さんに教えてもらっていた人だよね?」

「え?」


 声がした方をむくと、そこにはおじさんのダンスレッスンに居たであろう高校生くらいの美人さんがいた。・・・なぜこんな所にいるのか分からないが、ロッカーから持ってきたであろう荷物をもって、居るので帰るのではなかろうか?


「え・・と?」

「急に話しかけてごめんね。私は13時からのレッスンにいた美由紀って言うんだ。・・・それで貴方は?」

「俺は・・・春樹と言います。なんでしょうか?」

「きみ晃さんと一緒にいたよね?」


 晃さん?・・・あ、おじさんの事か。ずっとおじさんって言っていたから、名前は忘れていたよ。


「さっきの事ですか?昨日たまたま合いまして、今回呼ばれたんですよね。」

「へ~、どこであったの?君ダンスできなそうだから接点無さそうだけど。」


 ・・・何この人、見た目はいいのに毎回の圧が強いから怖いんだけど。それに、ダンスが下手って。。。いや別に間違ってはいないけど、今日始めた初心者だからなね。だけど、言い方があるじゃん。


 もっとオブラートに包んで行ってほしいよ。俺のガラスのハートが割れるから。


「・・・たまたま合う機会がありまして。着替えなければ行けないので、すみませんが。」

「え、チョット待ってよ!」


 ・・・美人さんとはお話くらいはしたいけど・・・こんなに怖そうな人は俺から願い下げだな。それに、もしかしたら昨日の事はおじさんは行ってほしくないかも知れないし。


 俺は何かを言おうとしていた美由紀さんを無視して、更衣室に戻ろうとしていたのだが、・・・なんでこの人ついてきているの?


「・・・」


 それと、なんで黙っているの?ついてくるなら何か話してくれない?怖いからさ。・・・更衣室についちゃったんだけど。


 何も言わないからこのままは入っちゃおうかな。・・・本当に何も言ってこなかったんだけど?後で何かして来ないよね?


 そう、安心して着替えて更衣室を出ると。


「で?教えてもらえる?」


 ・・・なんでいるの?ストーカーなの?

 いや、さっき「着替えなければ行けないので」とは言ったけど、それは貴方から離れる意味もあったんだけど。ただ、着替えたいから行ったわけではないからね。


 それなのに、なんでココニイルノカナ?


「えっと、、、何のことでしょう?」

「だから、なんで晃さんに教えてもらっているの!それも、個人指導で。」


 ・・・なんでなんだろう。いや、俺も別に知らないんだよな。

 昨日ここに来れば指導してくれるって言う事だったから、来たけど・・・ここまで人気がある人だとは知らなかったし。それに、ここまで大きい所でやるとも聞いていなかった。


「・・・俺には分からないのでおじさんに聞いてみてください。それでは。」


 まあ、別に知りたいとはそこまで思っていないから知りたいならおじさんに聞いてほしいな。・・・おじさんの所に戻るか。帰る挨拶はした方が良いだろうし。


 俺hあ重い段ボールを持ちながらスタジオに戻る事にした。・・・美由紀さんはいつの間にか居なくなっていた。



 ☆


 その思いダンボールを持ってスタジオに着くと、そこにはおじさんが親し気に俺は知らない人と話していた。


 話の邪魔をする事はあまりしたくないので、扉の後ろで隠れて居ようかと考えるともうその時には見付かっていたのか、声をかけられてしまった。


「坊主!どうした!」


 その元気な声は練習していた人が居なくなったスタジオに響いている。・・・さっきまで沢山の人がいたからか、ここのスタジオがさっきよりも大きく見える。それもそうなのかもしれない、ここには3人しかいないのだから。


「今日はありがとうございました。」

「おう!・・・そうだ、Twitter用のダンスをするんだが、少し見ていくか?」

「!見てみたいです。」


 Twitter用とか、何でも良いがおじさんのダンスを見れるなら、どんなダンスでも見てみたい。・・・見る事が大切だって言っていたし、それに実物と影像では見え方が違う気がするから。


「おし、ならそこで見ておけよ。」


 するともう用意は終わっていたのか、曲が流れ始めた。・・・ロックを踊る時に流していた曲と系統は似ているがまだ聞いたことが無い曲だ。


 すると、おじさんが踊り始めた時何と言う事か、そのダンスは笑っているようであった。・・・俺が踊った時とは違い、なぜか全身が楽しそうというか。柔らかく硬くない。


 そのダンスと俺のダンスでは何が違うのか。よく見て考えてみたが、何が違うのか分からない。・・・単純に熟練度的な事なのかとも考えたが、それは違う気がする。


 それなら、何が違うのか。


「・・・OK。ちゃんと取れたか?」

「あぁ、完璧だ。・・・もう上げてしまって良いか?」

「やっといてくれ」


 へ~、ああいうダンスの動画って結構ラフな感じで取っているんだな。もっと、何回もリテイクするのかと思っていたけど、一回で終わった。


「そうだ、坊主も撮ってみるか?」

「え?」

「別にTwitterには上げないから。・・・自分のダンスを見返せるようにするのは結構良いぞ。」


 ま、まあTwitterに上げないのであれば・・。


「お願いします。」

「じゃあ、さっき教えたステップを使って・・・30秒くらいでいいか。着替えたのに汗をかくのは嫌だろうしな。」


 そう言われ、向けられたカメラの前に立ち踊る事となった。・・・でも、さっき踊っていたからか、そこまで緊張する事無く踊れる。


 オンのリズムに合わせて、キッチリと。さっきよりも、綺麗に出来ている気がする。


 だけど、・・・やっぱり、おじさんの様な楽しい感じの動きではない。


「・・・晃さんどこで見つけてきたんですか。」

「んぁ?・・・お前から見ても面白いか?」


 俺がダンスを居ている時おじさんともう一人が俺のことについて話しているようだ。


「・・・貴方と同じことをしているんですから気にならない方が難しいですよ。」

「だよな!こいつ鍛えがいがありそうなんだよな。」


 おじさんと同じこと?


「どういうことですか?」


 俺はダンスが終わり、その事とを聞きに来た。その同じこととはこののっぺりなダンスの事なのだろう。もし、おじさんがそれを克服して今の様な感情があふれ出ているダンスが出来るようになっているのであれば、その方法がしりたい。


「「あ、それは」終わったか坊主、・・・後でデータはやるから帰っていいぞ。」

「・・・」


 おじさんと話していた人が何か言おうとしていたが、途中で話を区切ってしまった。もしかしたら、あまり言いたくない事なのかもしれない。・・・・でも、なんでこんな風なダンスになってしまうのかは聞いてみたい。


「はあ、晃さんもこのくらい教えてもいいじゃないですか。」

「だめだ。」


 おじさんはかたくなに教えてくれなさそうだ。それなら、俺は諦めて帰るしかできないだろう。・・・それに、もう遅くなってきたので、帰るにはいい時間だろう。


 データはくれるらしいので俺は帰る事にした。


 ☆


「・・・・貴方でも克服するのに5年かかったんですよ。」

「あれは自分で克服しなければ行けないんだ。・・・もし俺が教えて、、、俺みたいなダンスをするようになったらそれこそダメだろう。」


 それはどこを見ているのか・・・真剣で、どこか悲しいような顔をしていた。


「はぁ。それでもなんであんなダンスになってしまうかくらいは言っても良かったんじゃないですか?」

「・・・あいつは自分で克服できる才能がある。それが一番成長できる。」





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