第40話

 翌朝。

「まあどうなさったんですかお嬢様方! 目の下が大変なことに」



 私とミュゼットはあれからしばらく、窓辺から動けなかった。

 遠くでは火事だ火事だ、と野次馬だの消防だのが駆けつける音がしていた。

 何が起こっているのか想像はついた。


「皆、大丈夫かしら」


 私はつぶやいた。


「あのひと、私達はましな育ちだった、ってこと言ってたわ。だからきっと。それにお母様には甘い眠りって」


 確かに彼ならできるだろう。

 甘い香りの中、爆発の前に永遠の眠りにつかせたのかもしれない。

 そして父は。

 私は巻かれた書類を見た。


「これは明日、皆で開封しましょう」

「そうね」


 そしてそのまま二人して同じベッドに入って書類を枕の間に入れて寝ようとした。

 だがなかなかそんな時に寝付けるものではない。


「弟はどうなるのかしら」

「判らない。でも死なせはしなかった訳だし」

「まだましかしら」

「そう思いたいわ。あんまりにも接点が無かったのはまだ良かったのかも」

「かもね」


 そんなことをぶつぶつ言っているうちに、野次馬の声だの消火の音だのも次第に減っていき――

 気付くと、夜が明けていた。


「全然眠れなかった」

「私も」


 酷い顔、とお互い言い合った。

 屋根裏ではよくそんな顔で笑いあったものだった。


「ミュゼットはこれからどうするの?」

「スリール子爵の家に行くつもり。娘であってほしい、と言ってくれているし。私はあそこの二人が好きだし。それに貴女の様にこれ以上勉強したいとかは無いもの」

「居心地がいいならいいわ」

「何かこんな結果になっちゃって、アリサはいいの?」

「それを言うなら、ミュゼットも。夫人に直接一発入れてやりたかったんじゃないの?」

「そうね」


 そう言ってから、ミュゼットはううん、と首を横に振った。


「たぶん、誰かがやってくれて良かったのよ。だって私がどうこうしようと思ったなら、私、あのひとの顔に思いっきり傷をつけて放り出したいとか思ってしまってたかも」

「……過激だったのね」

「男爵の前に居る『女』が自分だけでありたい、というより男爵家に存在する『女』は自分一人でありたいと思ったひとだもの。美しさとか、女の武器とか、そういうところをぐちゃくちゃにしてやりたいって気持ちが無かった訳でもないわ」

「しかねなかった、のね」

「あのひとがしてくれなかったらね。爆発させるとは…… 思わなかったけど」

「その辺りは、さすが物騒な辺りから来たひとなのね」


 そういうことを話していたのだ。

 メイドは蒸しタオルを持ってきてくれた。

 そして二人分の下着を持ってきて、今日は何を着ましょうか、などと聞いてくる。

 ……正直、しばらくは慣れそうにない。

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