第20話
今回のお菓子は「さほどのものではないクッキーを大量に」とのことだった。
「奥様がバザーに出すのが、要するにクッキーの入った可愛い袋、ということなんだよ」
「バザー」
「婦人協会か何かのものでね。あまり気乗りはしない様だけど。それでも時々出さなくちゃならないから、って」
「でも何で気乗りがしないの?」
「何か色々制約があるんだってさ」
やれやれ、とばかりにハッティは手を挙げた。
「手作りの手芸品とお菓子。そのくらいがいいんだと。けど奥様はあまりどっちも好きじゃない」
「確かに。ミュゼットも初めは全然縫い物ができなかったものね」
ふと、ハッティは私に問いかけた。
「ミュゼットもできなかった?」
「ええ」
「でもミュゼットが私らに混じったのって、確か月のものが来たから、でしたよねえ」
「そう。確かあの時、夫人はこの家に自分以外の女が居るのが目障り、ということ言ったのよ。私何だかそれはもの凄くびっくりしたんで覚えてる」
「あー…… 居ますね。そういう女って時々。まあ、だからこそきちんとしたメイドでなくって、雑なのが好まれるんですよ。あのひとには」
「ええ。雑でいいんです。できすぎて綺麗なメイドなんて居たら、旦那様が手を出しかねない。そう考えるのが普通でしょう。家庭教師なんてもっと可哀想ですよ。綺麗な程職が無いんですから」
「それって」
「大概の貴族の家なんかじゃ、綺麗な家庭教師には手を出すのが普通ですからね」
私はぶるっと震えた。
「でも本当、ハッティは色々知ってるのね」
「いやいや、それが、嬢さんの欲しがっている、メイドの情報網ですよ」
手をひらひらを振るハッティに、あっ、と 私は声を立てた。
「よっぽど恩がある家、とか言うんじゃなければ、皆常に、もっと待遇のいいところを探しますって。常にメイドは足りないんですからね。だからこそ私のようなものでも入り込める。逆に嬢さんの様なひとがやっていても、なかなか判らない」
にやり、と彼女は笑った。
「ということで、お菓子の次は、バザーに参加するだろう別のお家。こんなもんでいいのか、って一応確認をしに行くということで」
私はもう、ただうなづくしかなかった。
*
「十年くらいの子供服を解いた布で作った小袋にリボンつけて、クッキーを入れる。いいんじゃないかなあ」
荷馬車はとある大きな屋敷の裏手へ向かった。
使用人口の方へ行くと、待ってたわ、とばかりに私達とは微妙に違うお仕着せを身につけたメイドが出迎えてくれた。
まあまあ、とばかりにお茶を淹れてくれたので私もそれに従った。
「いいんですか?」
「皆よその話に飢えてるの。ただし人数は限られてるけど」
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