第19話

ハッティは私の表情に手を挙げた。


「ああでも嬢さん、犯罪だから、って言って、即訴えればどうの、ってのは無理だからね」

「え、どうして」

「だから、それだけ使ってる奴等が居て、そういう業者が居て、ルートがある訳だよ」

「詳しいのね……」

「まあ、メイドやる前は、色々」


 言葉を濁した。


「うちは私みたいのだって動けると見たら雇ってくれたから、まあありがたいっちゃありがたいんだ。だから嬢さん、もし何かするにしても、すぐに私らが食えなくなるのは困るよ」

「そ――そうね」


 そう言えばそうだ。

 父の尻尾は捕まえたい。

 夫人も私やミュゼットに対する仕打ちは許せない。

 だけどそれだけでは済まない。


「……うん、その辺りも考えるわ」

「まあ、色々片付いた時に、ロルカ子爵家かその分家に紹介状出してくれれば私もロッティも問題無いけどねー」

 にやり、と彼女は笑う。

「そう言えば、ロッティとはずっと仲良しよね」

「前の、市場の下働きから職替えしよう、と言い出したのはあっち。で、二度ほど雑役女中の経験してさ。私らはずっと一緒に生きてきたからね。嬢さんとミュゼットもそういう感じに結局なったじゃない」

「うん。確かにそうだわ。二人とも一緒。と言うか、ここ自体は守ればいいのよね」

 私は大きくうなづいた。

「さて、とりあえず買い出し買い出し!」


 

 紅茶の店。

 高い天井まで続く棚に引き出し。

 「旦那様と奥様」用の絵付きの綺麗な缶が腕に一抱え程度の大きさのもの。

 そして私達用には、飾り気もへったくれもないブリキの一斗缶にどっさりと二つ。

 それを荷馬車に乗せて移動――する前に。


「そう言えば最近、香りの強い葉を注文する家、増えたんだって?」

「アールグレイのことですかね? あーいや、そっちはあまり。どっちかというと、東からものだったら最近は花茶が人気ありますね」

「花茶?」


 私はハッティと店主の話に割り込む。


「一個、見せましょうか」


 店主はそう言うと、何やら一つの塊をカップに入れた。

 そして熱い湯を注ぐ。

 しばらくして、中でふわりと――本当に、花が開いた。


「味はまあ、好き好きですが、綺麗でしょう?」

「そうだね。じゃあこれも1/4缶くらいで。奥様辺りが喜びそうだ」

「ありがとうございます」


 そう言ってハッティはそれも包んでもらった。


「ペットの子用にはいいだろ? 奥様的にはわざわざ良い店で服を仕立てようってんだから、なかなかお気に召してはいる様だし」

「でも嫌味に取られないかしら」

「私らがすることだ。嫌味というよりは、奉仕ってとられるのがオチさ」


 なるほど。

 ファデットとか、古参めのメイドとばかり話しているとなかなか聞けない話というのは面白い。


「じゃ次は、その流れでお菓子、と」

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