ぜつ☆ばん その3

 名前というものにはとても大切な意味がある。わたしが生まれたとき、親が付けた名前は「タツキ」と言った。無性的な名だ。本来二文字で表現される漢字で書くと男の名だと分かるのだが、「樹」と一文字で書いても読みは「タツキ」で成立するし、そうすれば男の名と読むことも女の名と読むこともできる。


 だが、わたしの戸籍上の名は実際にはそうではない。わたしは、だから、ここには書きたくないその二文字の名を厭うた。それで、普段は「イツキ」と名乗っている。唇にはルージュを引き、髪は長く伸ばして、よほど注意深く観察する者や或いは同類の類でなければ、わたしの本当の性別を初見で見抜くことは非常に難しい。まあ、あれですよ、割と生まれつき女顔だったし、骨格も華奢だし。


 わたしのような種類の人間を表現する言葉は何通りもある。政治的に正しいものから、政治的に正しくないもの、わたしにとって不快なもの、多くの人にとって不快なもの、その他、もろもろ。わたし自身は、『男の娘』という言い回しを、思春期の頃には好んで使っていた。性自認はどちらだとか、どちらでもないとか、どちらかに決めなければならないということ自体が正しくないとか、本当にこの世界には面倒くさい話が多く、とかく際限がないのだが、まあ呼びたければオカマと呼んでもらっても別に個人的には構わない。慣れているので。恋愛対象は、これは明確なのではっきり言ってしまっていいのだが、男性だ。


 とはいうものの実のところ、わたしには男性相手の性体験というものはない。まだ『男の娘』という自称を使っていた自分、そういうのが好きなもの好きなガールフレンドが何人かいたから、女性とは経験したことがあるのだが、それだけだ。


 ん、詳しいこと聞きたい? いいよ、じゃあ話してあげようか。あれは、わたしがまだ14歳で、スカートを履いて中学校に通っていた頃のことだった。

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