第11話 境界の宵闇

■境界の宵闇

◉20代女性、男性

◎年末の夜道。人通り少ない。

コンビニのビニール袋を下げた女性が夜道を一人で歩いている。

女性 「はー。毎年この時期、どうしてたんだっけ」

女性、ビニール袋から缶チューハイを取り出し飲む。

女性 「どこもかしこも、クリスマスが終わったら正月準備。本当、忙しない……」

女性 (ため息)

女性の背後から男性が声をかける。

男性 「お嬢さん」

女性 (えっ、何? 私のこと?)

女性、早足になる。

男性 「お嬢さん」

距離を詰める。

女性 (怖い怖い怖い)

男性 「お嬢さん」

女性 「ったぁ! すみません! それではっ!」

女性、勢いよく謝り顔を上げる。

男性 「ああ、やっと見てくれましたね、お嬢さん」

男性、女性の目の前に立っている。

女性 (やばい、やばい。変な人だ! 逃げなきゃ!)

女性、踵を返し、走る。

男性 「まって、そっちへ行っては」

女性 (おかしい、おかしい、おかしい。あの人は確かに私の後ろから歩いてきていたはず。だって、声は後ろからしていた。そう、後ろから声が聞こえていたはず)

走りながら缶チューハイを投げ捨てる。まっすぐ走り続けるが、暗い道が続くばかり。

男性 「ああ、やっと追いついた」

女性を抱きしめ、捕まえる。

男性 「お嬢さん、足早いんですね」

女性 「離してください! 警察呼びますよ!」

男性 「ああ、だめじゃないですか。そんな大声出して、気づかれたらどうするんです」

女性 「じゃあ離して!」

声を張り上げる。

男性 「ほら……言ったのに」

男性、右腕をほどき正面を指差す。

女性視線を動かす。

女性 「な、なに。あれ」

提灯と暗闇が眼前に広がっている。

男性 「あなたが大声出さなければ、無事に帰れたのに……私まで巻き添えですよ、これ」

男性、女性を解放する。

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