第36話 激闘
赤い輝きが私とリウォンを包み込んだ。
……あいつ、今なんて言った?
何の魔法を……聞き覚えが……!?
ようやく輝きが消失し目を開くと、視界に違和感を覚えた。
何だ? 視界が高い。
「なっ……」
左手を上げて視界に入れるとゴツゴツしてて……って私の身体!?
隣を見るとリウォンも目を見張って身体を動かしている。
「アリシア……これって?」
「元に戻っているな」
何かリウォンの身体に慣れすぎて、まるで自分が喋っているみたいで違和感が凄い。
……最初に入れ替わったときも同じようなことを思った気がする。
それだけリウォンの身体に慣れてしまったということか。
しかし、違和感を覚えていたのも束の間、懐かしい感触に思わず笑ってしまう。
口には出さないけど。
「魔族も人族も欲には抗うことはできない。この俺もそうだった。どうだ、貴様ら望みの身体が手に入った気分は」
どうやら未だに勘違いしている大魔王はそう尋ねてくる。
私は笑みを浮かべて返す。
「ふっ、確かに懐かしい気分。だけど、これでお前に従う理由にはならないな」
魔剣を出現させファウストロスに向けて構える。
……身体が違うだけでこうも握り心地が違うなんてな。
「そうだね。別に僕たちは頼んでないし。勝手にしたこと」
そう言ってリウォンも聖剣を出現させた。
「アリ……その見た目でアリシアはちょっと言いにくいね」
「今だけは魔王と呼べば良いよ。元々、最後の仕事のつもりで来てるし」
「確かにね」
私たちが微笑み合う一方、ファウストロスは大きく笑い出した。
「ハッハッハッハ!! 好戦的なのは結構。俺の部下になるのだ。血気盛んなぐらいがちょうどいい。だが、一つ教えてやる。
悪戯な笑みを浮かべてくすくすと笑うファウストロス。
「これで分かっただろ! 俺に刃向かって万が一に勝てたとしても、そのとき貴様らが手に入れた力は失う。その力を保ち続けたいのならば俺を守り続ける必要があるということ……なっ!!」
ファウストロスが驚いたのも無理はない。
言葉が続いている最中にもかかわらずリウォンが斬り掛かったからだ。
こういうところは私よりも容赦ないからな〜。
ファウストロスは慌てて長剣で防ぐ。
先程までの余裕はなくなっており意味が分からないと言ったような顔になっている。
それもそのはず、リウォンは既に聖力を全身に纏っており倒す気満々だからだ。
元の身体に戻った今、聖力を使えば負傷するという枷がなくなった。
実体験として今のリウォンはかなり強い。
まぁ、私も負けてはいないけど。
「唯一の負け筋を引いたようだね。大魔王だっけ? 出せなかったはずの全力で戦えるなんて思ってもみなかったよ」
まだ上昇し続けるリウォンの聖力。
これは私も負けていられないな。
どうやらファウストロスは躊躇なく攻撃を仕掛けるリウォンのことを未だに理解できていないようだ。
どうやら考えが間違った経験が今まであまりなかったのだろう。
成功し続けている者が間違いを突きつけられたときの戸惑いは常人よりも遙かに大きい。
「な、なぜだ。俺を倒せばその力はなくなるのだぞ!!」
「私たちがいつ力を求めた?」
背後に移動した私は次元魔法を纏った突きを繰り出す。
防御不能の攻撃だ。
躱すしかないだろ。
「ちっ!!」
やはり、躱して見せたファウストロスに私は腰を入れて突き出した剣をそのまま振り下ろす。
私はリウォンよりも技量が劣るから身体の負担なしに突きから振り下ろしの切り替えはできない。
だけど、この身体ならその負担はないに等しい。
「なっ、くそが!!」
ファウストロスは寸前で手を突き出す。
そこから衝撃が放たれ、私の身体を弾き飛ばす。
が、私はすぐに浮遊魔法で衝撃の逆方向に身体を引っ張って持ち堪える。
「先程までの力が感じないな」
私の笑みがさらにファウストロスを混乱させる。
「なぜだ。なぜ、こうも慣れている。入れ替わり始めは身体が上手く馴染めないはず。いや、そもそもおかしい。なぜ、魔王と勇者が馴れ合っている。前まで殺し合っていた仲ではなかったのか!?」
そのとき、ファストロスは何かに気が付いたようで呆然と私たちを見詰めている。
「まさか、貴様ら既に“
「私たちの望みはただ一つ。平穏な世の中だ。そんな世界にお前は邪魔だ」
私は“
「くくく、ハッハッハッハ!! もういい、貴様らはもういらん!! 俺が思い通りにならない者などあってはならない!!」
そう言って私の“
「ちっ、これを防ぐか。止められたのはリウォン以来だ」
そこで気が付いた。
ファウストロスの周囲を赤い文字、グリモアコードが回転している。
「グリモアコードの魔法か」
恐らく魔法の無効化か。
「はああああ!!」
リウォンが聖剣に聖力を纏わせ、その場から横に大振りした。
「“
眩い白い輝きの斬撃がファウストロスに迫る。
「消滅魔法か! 忌々しい勇者と同じ力」
ファウストロスはさらに身体を上昇させて光の斬撃を躱した。
「確かに強い。先程までと比べものにならん。が、それだけだ。いいだろう、その希望を打ち砕いてやる」
ようやく目付きが変わった。
これからが本気ということか。
だけど、本気を出していないのはこっちも同じだ。
ファウストロスに合わせて私も魔力を解き放つ。
リウォンもまた、同じように聖力をさらに解放した。
「なっ、貴様ら……嘗めやがって!!」
どう考えても始めは様子見だろ。
相手の実力を見てから攻め方を考えて、油断してくれるなら尚良し。
押し切れるなら始めからそうするけど……搦め手を駆使しないと勝てそうにないし。
「ま、魔王。そ、それって」
「ん? なんだ?」
リウォンが私の身体をまじまじと見詰めている。
なんだ、私の身体に何が……えっ?
私は首を傾げながら自分の身体を見てみると胸辺りに赤い文字が浮かんでいた。
「な、こ、これってグリモアコード?」
それに反応したのはファウストロスだった。
しかし、ファウストロスも変わらずにその身体にはグリモアコードが浮かんでいる。
つまり、ファウストロスのグリモアコードが私に移動したわけではない。
「な、なんだと……まさか、貴様が俺と同等の魔力を持っているだと!?」
なるほど、グリモアコードは深淵を使える魔族の頂点の者に現われる。
一つだけではないということか。
動揺しっぱなしのファウストロスだが、やがて落ち着きを取り戻して大きく息を吐いた。
「……何を俺は焦っていたのだ。先程までグリモアコードのことを何も知らなかった奴がすぐに扱えるわけがない」
……確かにその通りだ。
グリモアコードが現われたからと言って俺はその魔法についてそんなに知らない。
宝の持ち腐れと言っても過言ではないだろう。
「そして、勇者。確かに貴様の力は脅威だ。聖力の大きさには目を見張る物があるが、技に洗練さがない」
剣技に関して右に出る者がいないレベルのリウォンだが聖力に関しては思うところがあるらしく舌打ちをした。
「底の違いを知れ。“
ファウストロスの赤い文字が輝いた。
来る!!
と思った瞬間、背後に凄まじい衝撃が走った。
「がっ!!」
「かはっ!!」
リウォンもどうやら同じ衝撃に襲われたようで彼方まで飛んでいきそうになる。
だが、前方に魔方陣を展開し何とか身体を止めた。
しかし、その衝突のダメージはそのまま受けて呻き声を発している。
さらに頭が揺さぶられたのか手を当てつつも魔方陣を足場として飛び跳ねている。
私は何とか踏ん張って持ち堪えた。
これが身体能力の差というやつか。
やっぱり戦闘に限ってはこの身体は便利だな。
「防御できると考えるなよ。不可視にして不可避の一撃だ。そして威力も十分」
「そうか? この程度、なんともないぞ」
「一撃だけならな。これが何百と襲いかかってきた場合を想像しろ」
「“
私の背後、いや全方位から嫌な予感がした直後、それを妨げるようにリウォンがファウストロスに襲いかかった。
「“
だが、リウォンの攻撃はファウストロスが纏った球体に穴を開けて進む。
「くっ、これだから聖力は!! 仕方がない。“
グリモアコードの赤の煌めきと同時に、絶対防御ではない渦巻く風の壁がファウストロスの前方に出現しリウォンの攻撃を受け止めた。
「リウォン! 油断するな!! 攻撃が来るぞ!!」
私の声で気が付いたリウォンは頭を上に向ける。
その瞬間、落雷が飛来した。
「がっ……!!」
何とか、ダメージ自体は纏っている聖力で軽減したようだが麻痺による硬直が残っている。
「終わりだ!」
ファウストロスが止めとばかりに長剣を突き出した。
「させると思うか?」
私がその長剣を魔剣で防ぐ。
相変わらず“
ギチギチと剣同士が
そこで、硬直が解けたリウォンが攻撃を仕掛ける。
流石のファウストロスも後ろに下がった。
そう引きつつも私の真下から岩石が豪速で向かってきていた。
「ちっ!!」
瞬く間に岩石は私の四方を囲み、そのまま押し潰そうと迫ってくる。
「“
出現した裂け目が岩石を瞬く間に呑み込んでいく。
「……危なかった」
ファウストロスに追撃を行っていたリウォンも暴風の壁に攻め
「まさか、“
大笑いするファウストロスだが、その目は笑っていなかった。
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