七話 恥ずかしがっている(?)ミーシャ

「それにしても、ミーシャは本当に可愛いよなぁ〜」


 マスターに淹れてもらったカフェラテをすすりながら、俺はミーシャを撫でていた。

 ミーシャも嬉しそうに顔を俺の手に擦りつけている。


「なぁミーシャ聞いてくれよ。今日からまた学校が始まったんだけどさぁ、めっちゃくちゃ可愛い転校生が俺のクラスに来たんだよ」


 芹崎さんはものすごく可愛かった。

 蓮にする話ではなかったし(してもただ恥ずかしいだけだし)、でも誰かにこの思いを聞いてほしかった。

 ミーシャならいい意味で無反応だし、気兼ねなく思いをさらけ出すことが出来る。


 ……と、思ったのだが。


「んにゃぅ!?」


 何故かミーシャは酷く驚いたような声を上げた。


「うおっ!? なんだ、なんかあったか?」


 普段はもっと大人しくて上品な雰囲気のミーシャが、ここまで取り乱すのは初めてだった。

 俺に接するときはもっと甘えた雰囲気だったが、それでもこんなに驚いたような声は聞いたことがなかった。


 俺は周りやミーシャの身体を見回しながら必死にミーシャが驚いた原因を探すが、どこを探してもそれは見つからなかった。


「大丈夫か? どこか痛かったりでもしたのか?」

「んにゃ、にゃぃ」

「……特にはなさそうだな」


 俺は一通り確認したあと、ミーシャの頭を撫でる。

 ミーシャは何故か身体をくねらせているが、俺の手が拒まれることはなかった。

 撫でられることが嫌というわけではなさそうだ。


「どうかしたかい?」


 カウンターから作業をしているマスターが話しかけてくる。

 どうやら俺たちの異変に気づいたみたいだ。


「いや、特になんでもないです」

「そうかい? だったらいいが……」


 ミーシャも俺も、マスターに聞こえるくらい大きな声を出していたのか。

 ……もうなるべく騒がないようにしよう。


 俺は撫でるのを終えると、今度は少し声の大きさを抑えて、再び今日起きたことについて話し始める。


「……でさ、その子が芹崎さんって言う女の子なんだけど、表情も仕草もすごく可愛くて。学校に行くときなんか、俺の腕にしがみついてきたんだよ。あれはドキドキしたなぁ」


 こんなことを猫に話しかけていたら周りから気持ち悪がられそうだが、俺だって普通の男子高校生だ。

 可愛い子にあんなことをされたら嬉しいし、それだけでテンションが上がってしまう。


「にゃぅ、にゃ、うぅ」


 ……やはり、さっきからミーシャの様子がおかしい。

 小さくだが、声を出しながら後ずさっている。

 それはどこか、恥ずかしがっているような雰囲気だった。


「やっぱりどこか変なところでもあるのか?」


 俺は再度ミーシャに問いかけるが、ミーシャが何かを訴える様子はない。

 気になるが、何かあったらミーシャが行動を起こしてくれるだろう。


 俺はミーシャの様子を気にかけて、再び話し始める。


「それでさ。俺、芹崎さんに一目惚れしちゃったんだよね」


 何気なく言った一言だった。


「うにゃぁ!?!?」

「何!?」


 その瞬間、ミーシャとマスターが驚きの声を上げた。


「な、なんかあったか!? マスターも、どうかしましたか!?」


 ミーシャだけでなく、マスターまで驚きの声を上げたので、流石に今回は声を張り上げなくてはいけなかった。

 俺はミーシャとマスターに交互に視線を送るが、ミーシャは端でうずくまっており、マスターを思いきり首を振っていた。


「い、いや、なんでもないよ」


 絶対に何かあるような気がするが、あからさまにそれを否定する態度で作業に戻るマスター。

 ミーシャに至っては、もう俺とは目を合わせてくれなかった。


「な、なんだ? 一体なにがどうなっているんだ?」


 思わず心の声が漏れ出てしまうほど、俺は困惑し、そして寂寞せきばくとした気持ちになってしまうのだった。



         ◆



 あぁ、何ということでしょうか。

 あろうことか、祐也君は私に一目惚れをしてしまったようです。

 祐也君は気の抜けたようなお顔をしていましたが、私はもう祐也君と目を合わせられる自信がありません。


 マスターも酷く驚いた声を上げていましたが、、バレていませんでしょうか。


 バレたら大変なことになります。

 猫の姿だったら気兼ねなく祐也君に甘えられるのに、バレたらそれも出来なくなってしまいます。

 それにもしもバレてしまったら、に未練を祐也君に残してしまいます。


 みんなにとってデメリットがあるのです。

 だから、ミーシャが私であることを周りに絶対気づかれてはいけないのです。



 祐也君は、何故私に一目惚れをしたのでしょうか?

 いわゆる、というやつでしょうか?


 私には、恋というものが何か分かりません。

 猫ですから、人間が恋をするのも愛することも、それがどういうことなのかを理解することが出来ません。


 私は、祐也君が大好きです。

 でも、この気持ちが恋なのかは分からないのです。


 ……もしも、本当に祐也君が私に恋をしたというのなら、私はその気持ちにどうやって答えたらいいのでしょうか?


 後でマスターに聞いてみることにしましょうか。


 とりあえず、今日はもう祐也君と顔を合わせることが出来ません。

 早く帰ってくれることを願うように、私は身体を丸めるのでした。

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