落梨(おちなし)
大戦以来、人の数はグッと減った。
だから、人同士は(基本的には)争わない。どこでも協力的だ。世界にまだまだわんさかといる
ま、一部の異成人は、そうでないのもいるけれども。やっかいさはあるけれど、話がまったく通じないわけでもないしね、機械とは違って。
ところで。
「落梨といえば、やっぱフルーツか」
メイがのんきなドライブを楽しみながら、独り言のように云った。
「それと——」
「ほうとう!」
続く言葉に重ねるようにして私が云うと、真顔でこちらを一瞬見てから、ぷ、とメイが吹き出した。
「決まりだな」
「ほうとうってうどんの一種でしょ、楽しみだなあ」
「あれ? ユイは食べたことないんだっけ?」
云ってから、一瞬の間をおいて、メイは何事もなかったかのように前方へと視線を向けた。
私は、そのことに感謝した。
ほうとうを食べようということで意見の一致をみた私たちは、かろうじて村と呼べそうな集落を見つけ、車を停めた。
出入り口の
ログハウス調の店があった。
ほうとうの
店内に入る。
常連らしき無垢つけき男たちは、一瞥を寄越すとまためいめい食事や会話を再開した。
見知らぬ美女ふたりがやってきたってのに、ちょっとツレなくない?
「いらっしゃいませ」
看板娘らしき若く少しあどけない雰囲気の娘が水とメニューを運んできた。
あ、みんなこの子目当てなのね。
と、気づく。
洗練された都会の女の私たちは、ちと手に余るのかな、君たち。
「ほうとう二つ」
メイがメニューも見ずに云って娘は元気よく注文を繰り返した。お父さん、ほうとうふたつー! とタタッと小走りで行く看板娘を目の隅で眺めながらメニューを開く。思ったよりもメニューが豊富だった。
「メニューはいっぱいあってもどれだけ実際に出てくるのかね」とメイ。
「辛辣ね。でも、この猪豚の肉串とか、あるなら食べてみたいわねえ」
「お、肉串か。いいな、それ」
いちかばちか注文してみようか、と考えてから値段のところにある「時価」の文字に諦めた。
ほうとうは美味しかった。
あえて
「ただねえ、結構ヤバいよね」
「だよねえ」
彩球の町にまで辿り着ければたとえサンマーにまで行けずとも充分以上に旅行気分を満喫できるだろうが、道は困難だろう。
結局、コインの裏表で決めた。
「よーし、彩球レッツゴー!」
メイが屈託なくいい、私はまあまあ戦々恐々としながら落梨の集落を出発した。
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