KS —ザ・キリングシスターズ

スロ男(SSSS.SLOTMAN)

三馬への旅立ち

 飼猫を放つために、まずは埠頭へ寄った。猫がミャアミャアと騒がしく空を旋回している。


「たくましく生きるんだぞ……!」


 それらしく涙声を出しながら、猫のマオターレン(名前:猫大人)を空に放ったら、メイに背中を殴られた。


「痛い痛い! なにすんのっ!」

「わざとらしいことするからだろ。今生の別れじゃあるまいし」

「サンマーに行くから覚悟しろっていったのメイじゃん!」

「いわれるほど危険じゃないよ、サンマーは」


 視線を合わせず云うメイに、ほんとに? と訊ねると、たぶんな、と返ってきた。


「また、マオターレンに会えるかな?」


 空を見上げると、何十羽といる猫の中から、私たちの飼猫の姿を見出すことは叶わなかった。


「ま、またテキトーなの捕まえりゃいいじゃん。とりあえず腹ごなししてから出発だ!」

「ちょ、メイ……!」


 サンマーこと三馬サンマ県に行くからだろうか、特に相談をしたわけでもなくふたりとも中華街で三嗎麺サンマーメンを頼んだ。これでしばらく故郷の味とはお別れ。


 そして、どんな美味しいものが待っているのか。未知の味よ、待っとれやー!



 そもそも私たちは死出の旅に赴くとかではなく、サンマーに観光に行くのだった。

 九三津温泉にしようか、それとも倭香保わかほ温泉に行くか、なかなか決まらなかったのだったが、メイが見つけた雑誌に倭香保の名前の由来が載っていて、それで決定したのだ。


「古き良きの香りを残す温泉地ねえ」

「倭国なんて、もう存在しないけどな」


 元は普通のクーペだったニッサンを、メイが無理やり天井を剥いでオープンカーにした代物に乗りながら、私たちは東景とうけいを迂回して落梨おちなしへと向かっていた。


 東景には無人の戦術的多脚兵器ストラテジー・アラクネアームがわんさといるし、異成人ミュータントも多い。


 私もメイも荒事は決して苦手なほうではないが、観光に行くのに鉄火場を選ぶほど酔狂でもない。


 風が気持ちいい。


「ねえ、メイ」


 私はバサバサとはためくブルネットの髪を抑えながら、呑気に鼻歌を唄う相棒へと呼びかけた。


「サンマーにいったら陸猫りくねこいるかな? あたし、陸猫と触れ合いたい」


 ショートカットの赤毛をかきむしりながら、メイは眉をしかめた。


「どうかなあ。いてもおかしくなさそうだけど、……ああ、そういえば」


 元々三馬県は三毛の国ともいったらしい。雑誌からの受け売りだけど、とメイ。


「三毛陸猫とかいるかもな」

「おお!」私は目を輝かせた。「あの噂のハーレム猫! 雄しかいなくて雌がやたら少ないというウハウハな」

「逆じゃなかったか?」


 呆れを隠そうともせず云ったあと、メイはおもむろに後部座席に転がっていたバズーカをひっつかみ、ダッシュボードに片足をかけ照準を空に向けて叫んだ。


「ユイ! 運転頼む」


 私が手と脚を伸ばす――


 と、同時に耳をつん裂く激しい音。


 ちょうど猫たちがいれば滞空する辺りで砲弾が破裂し、それまで何もなかったはずの空間が歪み、亀裂が走り、煙を吐き出しながら滞空型自翔砲が落ちていった——


「て、わわ! こっち向かって堕ちてきてる!」

「なんのためにハンドル任せたのよっ!」


 スカートから脚をあらわにしてまでアクセルを踏み込み、なんとか直進を保つようにハンドルを押さえ込んだ私に向かってなんたる言い草!


 ハンドルをつかむ手を払われ、邪魔! と脚を浮かされ、助手席に私はつんのめった。急旋回。


「そっちは崖〜ッッ!」


 死を覚悟したが、左輪を浮かせたまま車体はかろうじて平衡を保ち、落下した自翔砲の爆破の熱波と衝撃を後ろに感じたときには、車は元の道へと復帰していた。


落梨おちなしに入ったな」


 東景だけが危険地帯じゃないってのは、そりゃまあわかってたことだけどね。

 国境がヤバいのは、今も昔も一緒、だ。

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