第11話 甘く見ていた



 私はあの保険医の事を甘く見ていた。


 あれで、終わりだとばかりに思っていた。


 だって、さすがにこんな手に出るとは思わないじゃない。


 ヒロインでも攻略対象でもなんでもない悪役令嬢の私を、家に招待するために。




 修理中の家に帰ったら、私の生活用品がごっそりなくなっていた。


 それはなぜか。


「お嬢様、お荷物は全部あちらの家に運んでおきましたので」

「???????」


 保険医が裏から手をまわして、使用人たちに接触していたからだ。

 それで、荷物が運び出されてしまっていた。


 当人に許可なしに。


 私、あなたの家に泊まるなんて一言も言ってないんですけど。


 困惑顔をさらしている私に使用人たちがおろおろし始める。


「あの、お嬢様?」

「なんでも、ないわ」


 無理して再起動した私は、きっとどんな子供も泣いて逃げる鬼がおになっていた頃だろう。


 長年仕えている使用人たちですら「ひょえっ!」という顔になっていたのだから。


「いいわよ。相手がそのつもりなら、こっちから飛び込んでいってあげるわよ」


 そして、弱みの一つや二つでも握って、ノワール様生存フラグをこの手で立ててやるのだ。


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