143話 『飛行士』の優秀な作詞家

第145章

 講師は一通り歌詞の説明をすると、最後に付け加えて言った。

「フランス語の基礎知識がある方は全員知っている(voler)という有名な動詞があります。自動詞と他動詞では意味が違うわけです。自動詞では『飛ぶ』という意味です。しかし他動詞では『盗む』という意味になるわけです。この曲の歌詞の中に(VOLE je veux un amour qui vole)という歌詞が最初に二回と一番最後の四番目に出てきます。そして三番目に(un aviateur qui me VOLE je veux un amour qui vole)という歌詞が出てきます。大文字で書いたVOLEです。三番目の歌詞のVOLEは他動詞なわけです。me『私を』という直接目的語があるからです。そこで『盗む』という意味になります。そこで『私をさらっていく航空士。空飛ぶ愛がほしい』と訳しました。しかし一番目と二番目と四番目の歌詞のVOLEは目的語がないため自動詞として、『飛ぶ。飛ぶような愛がほしい』と訳しました。この曲の作詞をされた方はこのvolerという動詞をこのようにうまく使い分けているようでさすがに優秀な作詞家の方だと思われます」

 すると生徒の一人が講師に言った。

「これはもしかしたら、一番目も二番目も最後の四番目のVOLEも形は自動詞の『飛ぶ』と作詞しているけれど、私をさらって行ってほしいという気持ちが含まれているのかもしれませんね」

「そうかもしれませんね。それからこれは私が勝手に考えたことですが、このVOLEという単語、何かほかの文字に似てませんか。どうですか、気が付いた人いますか」

 講師は生徒たち全員を見渡したが誰も答えなかった。そこで講師は藤枝に向かって言った。

「見学されているあなたはどうですか。このVOLEという文字、何か他の文字に似ているとは思いませんか」

「LOVE、ですか」

「そうです。よくわかりましたね。作詞家の方はVOLEという言葉にLOVEという意味を含ませて作詞したのかもしれません。しかしこれは私の勝手な想像でしかありませんけれどね。ではこの曲の説明はもうこれで。それではいよいよ皆さんにこの曲を一人一人歌ってもらいましょう」

 こうして生徒たちは、ひとりずつ順番に歌いだした。全員が歌い終わると今度は講師は藤枝に言った。

「では最後にそこの見学の方もどうですか。歌ってみませんか」

「私もですか」

「そうです」

 すると生徒たちがみんな拍手しだした。   つづく

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