8話 フランス海軍から受験票が来た

第10章

「有紀子、起きなさい」

「うーん……」

「そんなとこで何寝ているの」

「あ、お母さんか」

 藤枝有紀子は、自宅のソファーの上で寝ていた。

「郵便物が来ているよ」

「そう」

「フランスからだよ」

「フランス」

「CIRFAというところからだよ」

「CIRFA!」

「何か通信販売でも買ったの」

「そうじゃないよ、見せて」

「本当だ、CIRFAからだ」

「でもおかしいね、今日は日曜日でしょ、郵便の配達はないはずなのにね」

 彼女はその郵便物を持って、自分の部屋に飛んで行った。彼女は郵便物を開けた。中に入っていた用紙を取り出して読んでいった。それを読み終えると彼女は急いで服を着替えて、英会話教室のテキストと、水泳教室の水着をカバンに入れた。そしてそのかばんを持って玄関に飛んで行った。その時彼女は母親とぶつかりそうになった。

「あぶないじゃないの、どうしたのそんなに急いで」

「英会話教室と水泳教室に早くいかないと」

「まだそんな時間じゃないでしょう」

「ここにじっとしてられないよ」

「いったいどうしたんだよ」

「じゃあ行ってきます」

 彼女は自宅を飛び出していった。

 英会話教室についたがまだ早かったため扉が閉まっていた。職員もまだ来ていなかった。彼女は一人で建物の前で待っていた。するとそこへ職員がやってきた。

「藤枝さん、今日はずいぶん早く来ましたね」

「はい、家にじっとはしてられなくて」

「その意気です。そのくらいに熱意があればTOEICの英語の試験で700点以上とれますよ。1年ぐらい勉強すれば」

「1年じゃ遅いのです。今すぐ700点以上取らなくてはならなくなってしまったのです」

「いくらなんでも今すぐというのはねえ」

「何とかしてください」

「わかりました。授業までまだ時間があるので、一緒に今ここで少し勉強しましょう」

「お願いします」

 職員は教室のドアを開けると、彼女を中に入れた。

「では藤枝さん、今日のレッスンのところ少し予習をしましょうか」

「はい」

 藤枝はカバンから英会話教室のテキストを取り出した。そしてCIRFAから来た郵便物の中に入っていた用紙も。その用紙の一番上には次のように書かれていた。


           受験票(CONVOCATION)

フランス海軍パイロット将校生徒(Eleves offriciers pilotes de l'aeronautique de la Marine)

ランべオック海軍航空隊基地(Base Aeronavale de Lanveoc)にて試験を行う。

……   つづく


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