02-06  ダンジョンの道中って何書けばいいのかわかんないよな。

 朝靄と共に遺跡の門を開き内部へと突き進む、水脈を操作する遺跡というだけあって各所に張り巡らされた水路とパズルのようなギミックが行手を阻む。しかもどこかの穴から入り込んだ妖精や元々生息していた魔物、遺跡の防衛装置と思しき機械から横槍が入るときた。じゃがそれでも退くわけにはいかぬ。幸いここには霧も入り込んでいない、それが減っただけでもまだ進みやすいというもの。

 と、いうよりも露骨に誘導されてる気がするんじゃがの。


「またパズルか、……そんなに難しくないみたいだけど的当てがいるね、セルバ、手伝ってもらえる?」

「わかったのだ、弓矢のギミックならわたしに任せるのだ!」

『頼もしいですね、では我々はここで待機していますよ』


 いってらっしゃいとクリスとセルバがギミックを解くのを見守っておると、ふとニコラスが隅のほうで考え込んでいる姿が見えた。足元には先ほど倒した妖精が横たわっておる、何か気がついたことでもあったんじゃろうか。


「ニコラス、何を見ておるのじゃ?」

「あぁ、倒した妖精を少し」

「お主よもや解剖を……!?」

「してない、まだしてない」


 まだつったぞ、こやつ。まぁ良い賢者を抱えてるわしが言える話ではないの。


「冗談じゃ、何か収穫はあったかの」

「それなんだが」


 ニコラスは森に返還されつつある妖精の遺体に慎重に触れる。ニコラスの表情は被り傘で隠されておるものの、心苦しく感じているのだろうことはその仕草から伺える。狂って襲いかかってきたとはいえ大きさで言えば人間の七、八才ぐらいの姿の存在じゃ。状況が状況とはいえ辛かろう。

 見てくれと指差したのは妖精の右手じゃった。


「指が欠けている」


 なんとも痛ましい状態じゃった。まるで何か、強引に切り取られたかのように指が失われておる。


「これまで戦ってきた妖精たちのほとんどが同じ状態だった。妖精は指を命と同じく大切にする種族だ、指欠けの時点で相当異常だが……変だ」

「むむ、確かに。妖精はこれぐらいの損傷なら自己再生するとはいうがそれであっても指が欠けた状態で妖精が表に出るとは思えぬ、そも何故指だけなのじゃ……?」


 森に生きるものは指に強い信仰を持つ。狩猟を行う文化であるが故弓の才能に直結する指、そして爪を特に大切にするのじゃ。才能に秀でたものは狩猟を司るネイル神の加護をその爪に受けるのだという、それ故に指を失ったものは誇りを失ったも同然だと言われ指の再生が行われるまで妖精たちは人前には姿を現さなくなるのじゃ。これは純エルフでも同じだそうじゃが、ともかくこれは異常なことじゃろう。何か理由があるに違いない。


『あ、私分かりましたよ。教えましょうか?』


 お主ほんとこういうの聡いのう!!


「わざわざワンクッション置くとは相当やばい話な気がするのう! うむ、話せ」

『ウサギの足という錬金素材ってご存知です?』

「耳塞いでいいか」

「脳みそに直接突っ込まれるぞい」

「*スラング*」


 賢者がパタパタとニコラスの頭の上に座り、なんとも可愛らしい鳥の姿でやばい話をしておる。そういうとこじゃぞ。


『妖精の指は魔法の触媒としてとても優秀なんですよ。特に薬指には強い幸運が宿るとされていましてね、実際妖精の小指や爪には森を構築する土と風のエナが凝縮されているとのこと。特に強いエナを持つ爪や指は森の緑に染まって薄荷の色合いになるそうなんですよ、大昔これを用いた幸運のアクセサリーが流行しましてそれが原因で妖精やエルフの大乱獲が起きたんですよね。現在は法整備され狩猟が禁止されていますし、妖精の薬指は入手困難になっていますがほしい人は欲しがるんですけども……おや、取られてるのは親指や人差し指ですね』

「触媒として切り取られているというわけじゃない可能性のが高い、と……」

「そんな趣味の悪い……む? ちょっと待て、今何か……ニコラス、その子の背中に何かかかれとらんか?」

「む、背中?」


 妖精の遺体の背をよくよく確認すると、小さく丸い何かがスタンプのように張り付いておった。丸の中に目のような印と、それを貫くような縦線が描かれておる。


『焼き印……?』

「目のシンボルに、針……この焼き印、まさかっ」


 何かに気がついたのかニコラスが血相を変え、懐から取り出した手帳をパラパラと確認する。覗き込めばそこには妖精につけられた焼き印とまったく同じ印がメモされておった。


「レザーナの焼き印スタンプ……!!」

「知り合いかの?」

「敵だ」


 そうバッサリ言いのけるほどの相手なのじゃろう、ニコラスの声色からは恐怖とも憎悪ともいうべき感情が滲み出ておった。


「魔の革細工師レザーナ、各地の希少生物や種族から素材を強奪してアクセサリーを作る魔族だ。まさか復帰しているとはな……」

「なんじゃ前回の鴉みたいな悪趣味族は」

「前回?」

「ちょっと前にジェムードなる鴉の宝石職人をしばいたのじゃ」

「ジェムード、を?」


 魔王の依頼で人の命で出来た髪飾りを作ろうとしたあの野郎のことを思い出すと今でもムカムカするがの。人の命を弄ぶだけじゃなくそれをわしのピリカちゃんに付けようなど許せることじゃないわい!! 次見つけたら絶対に息の根を止めてやるのじゃ!!

 そんなわしの怒りはさておいて、ニコラスは何か心当たりがあるのか少し考えているようじゃった。そして神妙な面持ちで向き直った。


「王様、そして賢者さま。この件私が話したということはどうか内密に」

「お、そっちの筋の情報じゃの。わかった、秘密にしておくのじゃ」

『おや私にまで釘を刺すとは相当ですね、いいでしょう』

 

 ニコラスは張り詰めた様子である存在の名を出した。――思えば、すでにここからあやつらとの戦いは始まっていたのかも知れぬ。


「魔の針と呼ばれる連中は知っているか?」

「魔の針、とな?」

「希少なマテリアルや人命を巻き込んで宝石や装飾を作る人道を捨てた職人たちの集いだ、三年前私が潰したのだがここ最近になって再結集したようでな。ジェムードが動いているという話は聞いていたが、そちらで倒していたんだな」


 なんと以前追い払ったジェムードは魔の針の幹部の一人なのだという。そして魔の針は手段を選ばず客も選ばない恐ろしい集団らしく、犯罪者のみならず魔族や闇の存在とも取引をしそういった禁忌の物品を作り出してしまうそうなのじゃ。彼らがアクセサリーや服を作るために国が消えたことさえあると聞く、なんと恐ろしい連中じゃ! そしておそらく、というか確実にこの森の異変にそのレザーナが関わっているとニコラスが言う。


「焼き印から見るにレザーナが噛んでることは間違いない。状況を見るに相手の目的は触媒ではなく爪だ、恐らく魔王からの依頼を受けてのものだろう」

『ふむ、そちらでも察知していましたか。にしても確信的ですね、心当たりがあると?』

「レザーナが最も得意とするのは革製の装飾だ、爪を用いたアクセサリーは依頼でもない限り手を出さない」

「バチバチ知り合いみたいな物言いしとるが大丈夫かの、顔が青いぞい」

「いやちょっと前に関わった時のトラウマが」


 今でも名前を出すとゾワゾワするのだとニコラスが左手の指をさする。よく見てみればニコラスの指には自己回復を促す加護をつけた指輪がついておった、お主まさか爪を……?

 ともかく、前回のジェムードと同じなら今回も魔王に献上するためのアクセサリー作りの可能性が高い。そうなったとなればやることは一つじゃな!!


「潰すか」

「えっ」

『パスカル』

「うおっほんッ、ともかく何が敵でも見つけ次第やっつけてやるかの! のう賢者!」

『そうですね、王様のおっしゃる通りです』


 ちょうど情報共有が済んだところで仕掛け扉が開いた、どうやらクリスとセルバが上手くやってくれたようじゃ。


「戻ったのだ〜! 頑張ったのだ!」

「ダミーがあって時間くっちゃった、こっちは大丈夫だったか?」

「うむ、何事もなかったぞい。二人ともよくやったのじゃ!」

『では先に進みましょうか』

「あぁ、行こう。クリス、距離はどうだ」

「もう少しみたい、急ごう!」

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