とりあえず刑法を定めるとしようか

 さて、曹操を青州に派遣した俺は後漢の法律を改めて確認した上で内容を明確にしようと思う。


「現状は何がなんだかさっぱりわからん状態だからな」


 法律について言えばまず、秦の都、咸陽(長安)を制圧した劉邦は、「法三章」を実行したと言われる。


 すなわち「人を殺した者は死刑。人を傷つけた者及び窃盗を行なった者は耳削ぎなどの肉刑に処する」というものだ。


 それまでの細かすぎて実行が難しいのにそれを行えないと死罪などの罰が容赦なく行われる秦の法律を極端に簡素化した、この法律は最初は歓迎されたが、それだけでは実際には対処に困る事が増えたため、前186年には秦の法に改定を加えたものが前漢政府の法律として発布されている。


 とは言えこれは法の整理と運用に支障があったのだが、項目はどんどん増えていった結果、後漢末期には2万6272箇条にも達し、事実上それを理解できているものはほとんどいなかった。


「なんで裁く者の気分次第で結果が全然違ったりもしたんだよな」


 その後、魏公として国政の実権を掌握した曹操は、煩雑すぎる法の是正を目指したが、根本的な解決にいたらず、その後継者となった曹丕やその子である曹叡によってようやく、法解釈の統一がなされたが、この時に数多くの法書の中から儒学の大家である鄭玄の注釈だけが用いられることになり、儒教第一主義に弊害がむしろ大きくなったとも言えたが、漢以来の令を取捨選択し、必要なものは律に残し、不必要なものは廃止して、これまで取捨選択されないで蓄積のみされ、増える一方だったことの弊害を一挙に解決をはかっってある程度はそれに成功した。


 その後、晋王として実権を掌握した司馬昭は、まだまだ律令が煩雑すぎるとして、新たな法典の編纂を命じた、司馬昭の子の司馬炎が晋を創設して武帝となり『泰始律令』が公布されたが、刑罰規定を「律」に、行政組織と執務規則を中心とする非刑罰規定を「令」の二本立ての基本法典からなるこれにより律令政治というものがおおよそ確立した。


 だが、その後の八王の乱と遊牧民族の侵入の結果、晋は黄河流域の華北を放棄し、五胡十六国の時代になると法の発達は停滞した。


 隋文帝・楊堅が『開皇律』をさだめ、それを改定した『大業律』を二代目の隋煬帝・楊広が発布し、隋を倒して唐を建てた高祖李淵は、『大業律』を廃して、『武徳律』としこれにより律令法体系は完成した。


 律は刑法で、社会的に行ってはいけないとされる犯罪行為の規定と、それに違反した者への罰則を規定したもの。


 令は行政法で税制、兵制などそれに深く関わる婚姻や戸籍制度などの義務の明示に関する決まり事だ。


 それまでそんなこともまともにまとまってなかったのかと思うかもしれないが、実際まとまってなかったのだからしょうがない。


「ほんと良く政治が回ってたと感心するぜ」


 また後漢における罰は主に墨で入れ墨を入れる、鞭でむち打ちを行う、宮で去勢する、大辟で殺すというもの。


 五胡十六国の北朝において自由刑である徒刑や流刑などの整備が行われ、やがて、隋に至ってほぼまとまり、笞刑こと木製の笞杖によって臀部を打つ、杖刑こと木製の杖をもって背中を打つ、徒刑こと鉱山など過酷な労働環境での強制労働、流刑こと辺境などへの追放、死刑といった刑罰があった。


 罰金刑とか懲役刑と言ったものは基本的にないのだよな。


「刑法に関して言えば江戸時代の幕府のものあたりが良いか」


 大逆罪は九族まで死罪の上、棄市、腐敗したら遺体は焼却処分。

(この時代はエジプトやメソポタミアと同じく遺体が焼かれると死後の世界に行けないとされていたためそれは非常に恐れられていた)

 または徒刑として牢獄に収監し陵などの公共施設の建設などを死ぬまで行うこと。


 聖帝、皇后、嫡子の死を企み、または目論むこと

 皇后、聖帝の未婚の王女、または嫡子の妻を汚すこと

 聖帝に対し、その国内で敵対的行為を仕掛けること

 聖帝の敵に援助と安息を供与し、敵に味方すること

 王璽、国璽、または貨幣を偽造すること

 職務を遂行中の官吏や裁判官を殺害すること


 内乱罪は三族まで死罪の上、棄市、腐敗したら遺体は焼却処分。

 または徒刑として牢獄に収監し陵などの公共施設の建設などを死ぬまで行うこと。


 統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動を起こすこと


 外患罪は三族まで死罪の上、棄市、腐敗したら遺体は焼却処分。

 または徒刑として牢獄に収監し陵などの公共施設の建設などを死ぬまで行うこと。


 外国や異民族と通謀して国に対し武力を行使させること

 国に対して外国や異民族から武力の行使があったときにそれに加わること

 国に対して外国や異民族から武力の行使があったときに兵站・諜報活動等の支援を行うこと


 殺人は死罪

 強盗も死罪

 傷害は相手に後遺症が残るほどの傷害であれば朝鮮半島もしくは夷州(台湾)・亶州(日本の九州)への追放

 そうでない場合は笞杖で50回の尻たたき

 1万銭以上やそれと同価値のものたとえば牛馬一頭や名刀、美人奴隷など同等以上の価値があるものを盗んだ場合などの窃盗は死罪

 1万銭未満や同等の価値を持つものの窃盗は笞杖で100回の尻たたきのうえ入れ墨を行い、2度窃盗を繰り返したものは死罪

 詐欺や横領、意図的な建物や奴隷家畜を含む財産の破壊なども窃盗に準じる

 1万銭以上やそれと同価値のものたとえば牛馬一頭や名刀など同等以上の価値があるものでの贈収賄は双方死罪

 1万銭未満や同等の価値を持つもの贈収賄は朝鮮半島への双方追放


 なお反乱鎮圧などの軍務中や犯罪者の追捕時など治安維持任務中においては将軍等の命令指示が優先される。


「まあこんなところか?」


 ちなみのこの時代の牢獄は竪穴式住居の一種で地下に10メートルくらいの深さのでかい穴を掘ってその中に罪人をまとめて入れておくというもの、もっとも外などへの出入りは逃げられないように必要なときだけ入れられるはしごを使うのだが。


 なので木や鉄の格子で作られた時代劇に出てくるような牢屋ではないことが多い。


 とはいえ罪人とされたものを載せて輸送する監車などはあるので、場所によっては時代劇みたいな建物の牢獄もあるかもな。

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