鄴城外の野戦決戦

 かくして董卓軍と袁紹軍のそれぞれの主力10万の軍勢が正面から激突することになった。


 もっとも董卓の軍はいまだに冀州北部で後方攪乱を行っている劉備や江南の山越を平定している朱儁や賀斉、董卓の本来の本拠地とも言える涼州にいる董仁、趙雲、馬超、荊州の蔡瑁らも部隊をそれぞれ持っているが、袁紹は青州にいる袁譚の兵力を除けばほぼすべての袁紹軍の全ての兵力を集めていた。


 正史には袁紹は精鋭十万人、騎兵一万人を催して許を攻撃することとし、審配・逢紀に軍事を統べさせ、田豊・荀諶・許攸を謀主、顔良・文醜を将帥としたと官渡の戦いでは書かれているが騎兵の数をそこまで揃えることは現状の袁紹には不可能だった。


「一戦して必ずや敵を打ち破るのだ!」


「おお!」


 袁紹やその部下、たとえば審配たちは野戦よりも攻城戦や野戦築城、そして外交による揺さぶりに長けているが、野戦では麴義など一部を除けばそこまで強いと言える人材はいなかった。


 現在残っているのは高幹、高覧、臧洪、朱霊、張楊、韓荀、韓猛、眭元進、韓莒子、呂威璜、趙叡といった武将もまだ残っていたが、この中で現状でも有力な武将は朱霊くらいであろうか。


 史実において朱霊は初平4年(193年)または興平元年(194年)に曹操が徐州の陶謙を討伐した際に、袁紹が朱霊を曹操の救援に派遣し、朱霊はその際に曹操の器量に惚れ込み、その家臣となった。


 その後曹操のもとで彼は様々な活躍をしている。


 建安4年(199年)、曹操が袁術を討伐させようとしたときには劉備と共に朱霊を送り出している。


 しかしその後は、于禁や夏侯淵などの指揮下に入っていたりといまいち不遇であったが、張郃や徐晃と共に朱霊は多くの主要な戦いに参加して軍功を挙げ、その名声は徐晃に次ぎ、最終的には後将軍にまで昇進するほどだった。


 その割には正史などには記述が少ない影がいまいち薄い人物ではあるのだが。


 一方の董卓軍は総大将である董旻は董卓の後を継いだ百戦錬磨の指揮官であり、そこに呂布と韓遂にくわえて盧植、董越、張郃、陶謙、黄忠、張遼などが加わり、その将軍たちの下には高順、麴義、于禁、楽進、梁習、徐晃、郝昭など綺羅星と言える人物が加わっている。


「最右翼は呂(布)奉先、最左翼は張(遼)文遠、両名は敵を横より攻撃して突き崩してくれ。

 後は正面から押しつぶすぞ」


「おお!」


 そして冀州は平原が広がっているため馬の機動力を最大限に生かせる場所でもあったがすでに騎馬を運用できる人物が袁紹軍にはいなかった。


 そして史実の官渡の戦いにおいては袁紹は野戦築城で陣をこまめに構築し曹操の強みである機動力を封じながら少しずつ圧迫をかけていった。


 曹操はここであえて出撃して袁紹に正面から挑んだが兵力、装備のどちらも上の袁紹軍とまともに戦って勝ち目はなく大損害を受けて官渡砦へ撤退している。


 しかし現状ではそのようなことをしている余裕は袁紹になかった。


 お互いに横陣を横一列に並べ相対した董卓軍と袁紹軍はそれぞれが前進して、とうとう激突した。


 横陣同士での矢の応射を繰り返す弓合戦では飛来する矢にあたった兵がパタパタ倒れていくが、やはり弓の威力や鎧の装備率の差で董卓軍が優勢だ。


「どんどん矢を射掛けよ!」


「くっ、弓合戦では分が悪い前進せよ!」


 董卓軍の最前列は袁紹軍の接近に備え矛を構え、矛と矛が打ち合う白兵戦へと移行した。


 お互いが足を止めあっての白兵戦で動きが止まった時に、呂布と張遼の騎兵が袁紹軍の騎兵を潰走させて、歩兵に左右から襲いかかった。


 そうなれば歩兵が戦列を維持するのはほぼ不可能で袁紹軍は左右両翼から陣が崩れていく。


「もう無理だ!」


 やがて兵士たちが逃げ始めると一番うしろにいた袁紹や郭図、辛評などはまっさきに城へ逃亡し、前線で戦っていたものは多くは逃げ出すか降伏した。


 この戦いによって袁紹軍はおよそ1万人の死者と多数の降伏者と逃散兵を出し、鄴へ逃げ込んだのは2万でしか無かったという。


 そして降伏した者の中には朱霊や高幹、高覧、辛毘なども含まれていたのだった。


「これでもう袁紹は立ち直れまい、あとは鄴をおとすだけだ」


 中国大陸北方の趨勢はほぼこれで決まったのであった。

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