俺の暗殺を防ぐためにも参謀たちと話をしてみるか

 さて、俺を暗殺したいと考える人間は今明確に敵対していて、しかもかなり追い詰められつつある袁紹だけでなく、天子を絶対とする漢の忠臣や、俺を排除すれば権力が手に入ると考えるやつなどを考えればキリがない。


 史実の董卓にしても曹操にしても西洋の英雄ナポレオンにしても暗殺計画や暗殺未遂は結構あるからな。


「信頼できそうなやつを集めて話をしてみるか」


 まあ史実と違って俺のところにいる連中の多くは袁術にも袁紹にもつかなかったということで天子を絶対とする漢の忠臣や漢の権威が必要な名家の人間はあんまりいないはずだが。


 俺は賈詡を筆頭に李儒、荀彧、郭嘉、徐庶、蔡邕といったメンツを呼び寄せた。


 党錮の禁で宦官勢力に批判的な清流派士大夫はその後黄巾の乱が起こるまでの長い間、官職につけなかったこともあって、霊帝の行いに対してよく思ってないものが多く、皇室そのものへの忠誠心はないものも多い。


 史実で曹操が魏公に就任しようとしたことを諌めたことで、漢の忠臣と思われている荀彧なども実際は漢王朝の存続そのものには興味がなく、献帝を確保したのも大義名分のある官職の任命権が欲しかっただけで、実際に曹操の代わりに献帝を監視していたのは荀彧だった。


 もっとも荀彧が曹操に仕えたころはあくまでも袁紹の有力な部下程度の存在でしかなかったから、漢にとってかわる程の存在になるとは思っていなかったかもしれない。


 しかし曹操を光武帝や劉邦に例えて、自分を張良に例えたりもしているから、最終的には曹操に後漢の統治範囲をすべて支配させ中国大陸を統一させたかったのではあろうと思う。


 ただ赤壁で敗北した後、おそらく荊州への再度の侵攻を具申したであろう荀彧に対して、曹操は赤壁の損害の大きさなどからそれにうなずかず、関中の方を優先しようとしたであろうため意見が合わず、なおかつ郭嘉が生きていればこんなことにはならなかっただろうと曹操は思っていたであろう。


 実際に赤壁の戦いに関して、賈詡は出兵を取りやめるように進言していて、赤壁の後は荀彧ではなく賈詡のほうが重用されていくことになる。


 そして、九錫すなわち王莽に習って禅譲を受けることに対しては荀彧は劉備や孫権を倒して後に受けるべきと思っていただろうが、曹操はそれは無理だと思っていて、中国大陸統一しか認めない荀彧と、それは諦めて息子への勢力継承に走り始めた曹操の決定的な決裂が起こり、そのため荀彧は赤壁の敗北後は表舞台からは記述が消えるほど存在感が薄くなったのだと思う。


 これはおそらく二人にの年齢差なども関係していたんだろうし、荀彧は官渡の戦いでも度々気弱になる曹操の尻を叩いていたのでその時と同じように振る舞ったのだろう。


 ちなみに蓋勲や王允はおそらく天子第一主義だろうから職務を与えて外したし、曹操は袁紹と逢紀・許攸の離間計のために冀州へ向かってるのでいないが。


「皆忙しいところ呼び寄せてすまんな」


 俺がそう言うと賈詡が皆を代表するように言った。


「いえいえ、これだけの顔ぶれが揃うとなると重要な話でございましょう」


「うむ、とても大事な話だ。

 現状俺と明確に敵対しているのは残るは袁紹のみとなった。

 俺も袁紹陣営の切り崩しを行っているが、無論袁紹も同じことを考えているだろう。

 俺が天子をないがしろにしているがいいのかとそそのかしたり、俺を排除すればそのまま権力が手に入るぞと煽ってみたりだな」


 荀彧が深くうなずいていった


「十分あり得る話ですな、そのあたりはどうなってるのだろうか?」


 荀彧は李儒に向かって言った。


「何顒と伍瓊というものがなにやら動いているようであります」


 俺はそれを聞いて李儒へ問う。


「ふむ、彼らは袁紹のために動いているのか?」


「いえ、そうではないようです」


「では、本人達単独の計画ということか」


「おそらくはそうかと思われます」


 しかし、ずいぶん懐かしい名前だが、李膺経由でこの二人は俺の方へつくかと思ったんだがそうはならなかったな。


 何顒と伍瓊は何進の下で袁紹や袁術と共に宦官打倒の計画を練ったので、その後も洛陽に残ったであろうが袁術のことはおそらく早い時点で見限ったんだろう。


 史実では何顒はかつて袁紹の奔走の友と言われた人物であって、袁紹が洛陽から逃亡したときには董卓を宥め、袁紹を渤海太守に任命させたが、おそらく反董卓連合軍の無様な瓦解をみて袁紹を見限ったのだろう。


「まあ、宦官と袁術を排除したら権力が手に入るはずだったんだろうな、あっちからみれば」


「おそらくそんなところでしょうな。

 何顒は王允とは何進の府で同僚でもあったからか、王允へいろいろ吹き込んでいるようです」


「それは困ったものだな……」


 何顒と伍瓊が漢室の忠臣であるかどうかは微妙なところだが、王允は帝への忠誠は間違いないっぽいんだよな。


「とはいえあまり先走っては何顒と伍瓊の人気ゆえに俺の評判が下がるだろうし、過去からの交友関係などから協力者を監視するくらいしか出来ぬか」


 李儒はうなずく。


「今の所はそうですな、しかし、監視のための人員を増やすようにいたしましょう」


 そこへ郭嘉が口を挟んだ。


「何顒と伍瓊は旧来よりの友ではありますが、仮に董相国を暗殺したとしても必ずや権力をめぐりもめて争うでしょう。

 ならばそれを先んじて引き起こすようにすればよろしいかと。

 謁見を求めてきたら両者の扱いに差をつけお互いに疑心をもたせ、変化が起こるのを待つのがよいでしょう」


「ふむ、それもそうであるな」


 賈詡が付け加えるように言った。


「王允に手紙を送り、その後の行動次第で彼も捕らえるべきでありましょう」


「たしかにそうであるな」


 俺がうなずくと徐庶や蔡邕もその意見に賛同したので、その後実際に彼らに行う細かい内容を話し合わせた。


 結果としては袁術のもとで政治に加わっていたことを理由に一度捕縛し、牢獄での扱いを明らかに差をつけた上で待遇の良いほうが金でもう一方を売ったと伝えさせようと決まった。


「とりあえず謁見のときに殺されないように気をつけねばな」


「そのあたりはおまかせを」


 李儒がそう言うのでとりあえずは彼に任せることにしたが、どうなるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る