張遼の汝南黄巾残党殲滅戦

 董卓より汝南で反乱を起こした黄巾残党の討伐を命じられた張遼は、史実における魏の五将軍筆頭であり215年に行われた合肥の戦いで10万の孫権軍を7000の守備兵で楽進・李典とともに迎え撃ち、張遼は800の兵で孫権の本陣に斬り込み数十人の兵と陳武を含めた2人の将校を斬り殺した。


 それにより高い丘の上に逃走した孫権が張遼の率いる軍が寡兵であることを見てとり、張遼の軍を幾重にも包囲したのだが、敵軍の意表を突き包囲の中央を急襲し突破。


 しかし、張遼以外は数十人の兵しか脱出することが出来ず、残りの兵は包囲の中に取り残されたため張遼は再び包囲に突撃し残された兵を救出しまた脱出。


 その後も張遼は明け方から日中まで戦い続け、孫権軍が戦意を喪失すると、城まで後退し守備を固め、孫権は合肥城を攻囲したが陥落させることができず、陣中に疫病が発生したため10日目で退却を開始した。


 という古の項羽のようなことを実際に行った人物である。


 もっとも演義では関羽の引き立て役なような扱いであまり目立たない存在でもある。


 正史は呂布の配下のときには騎兵を率いて数々の戦果を上げているが、そこまで目立つ存在ではなく、(これは五将軍の一人張郃も袁紹の配下のときにはあまり目立った存在ではなかったのと同様であるが)、200年の白馬の戦いでは張遼も顔良を打ち倒すことに協力していたり、202年から205年にかけての袁譚・袁尚との戦いでも戦功を上げ、そのさなかの204年には黒山賊の孫軽らを降し、207年の烏丸征伐でも先鋒として活躍、209年にはもと袁術の部曲であった陳蘭とその盟友梅成を斬首したりもしているがそのあたりは演義ではほとんど記述されていない。


 それらの活躍が認められて、曹操から合肥の駐屯を任され、結果合肥で大活躍したのであるが。


 呉ではこれ以降は「遼来遼来」と魏軍が叫ぶだけで呉の兵は浮き足立つようになり、泣いている子供に対して「泣いていると張遼がやってくるぞ」と言い聞かせたことから泣く子も黙るという話しの語源となるわけである。


 とはいえ張遼と李典は普段から仲が悪かったことが有名だが、それだけでなく合肥駐留時代に張遼は護軍で臧覇からも尊敬された武周と仲違いし、揚州治中の胡質を護軍にしてもらえるよう揚州刺史の温恢に求めたが胡質に「武伯南(武周)は正しい人物です。張遼殿は昔、武周を尊敬しておられましたが、今は目付きが気に入らんと言って嫌っております。ましてや私のような拙い者では、張遼殿とうまく付き合えないと思うのです」などと言われ武周に謝りに行ったりしている以外にも「張遼が誰々と仲違いしていた」という記述は多くて好き嫌いの激しいタイプであった上に、要害に篭ってる敵を前にして、「いいか、これは自分との戦いだ、俺たちは勇者だ!突撃!」と叫んでから自ら先陣をきって突撃を敢行したり、合肥の戦いで敵の大軍に囲まれた時も「いいか、このままじゃ負けだ、敵の出鼻を挫いてやれ。突撃!」と自ら突撃敢行したりしている人物で、銀河英雄伝説のビッテンフェルトやナポレオン戦争のミュラやネイに近いとも言える。


 合肥の戦いの時に曹操は張魯を攻撃するため漢中に遠征していたが、文書で「張遼と李典は城を出て戦い、楽進は城で護軍を守れ」という指令を与えていたがその他の武将が呉の大群を目の前にして出撃することにビビっていたところを平気で張遼は出撃して呉軍を撃退していたりする。


 曹操の配下の李典や楽進を筆頭に「冷静沈着」「軍規に忠実」「兵法通りの戦いぶり」を行えそれにより功績を立てて来たものが多いのも事実であり張遼は異質な存在でもあった。


 その張遼はやっと与えられた活躍の機会に燃えていた。


「北方での戦いに参戦できなかったのは残念だがここで大活躍して名を挙げるぞ!」


「おおー!」


 南陽より汝南はすぐとなりであり2000の騎兵を率いた張遼の部隊は早速黄邵の率いる数万の反乱軍と接触した。


「さあ、手柄はたて放題だ! 突撃!」


 張遼は呉鉤(曲刀)を振り上げてそう叫ぶと先陣をきって突撃をおこなう。


「おお!!将軍に遅れを取るな!!」


「首を取り放題だな!」


「ああ、いくらでも首を取れるぞ!」


 張遼の配下も彼について来れるだけの猛者ばかりであった。


 と追撃を受けた黄邵は溜まったものではなかった。


「な、なんだ? なんなんだこいつら?」


 もともと平和になっても賊を続けるような連中は弱いものには強く出るが、いざというときには臆病なものも多い。


「ひい~助けてくれー!」


 とあっという間に反乱兵は逃げちって黄邵は討ち取られた。


「よし!次の首はどこだ?」


 こうして張遼はあっという間に汝南の黄巾残党の反乱軍を壊滅させたのであった。

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