謀反人同士で袁紹と同盟して皇甫嵩に対抗するとしよう

 さて、皇甫嵩からの罪人引き渡しを拒んだことで、俺は漢王朝からの正式な将軍職を剥奪され、謀反人となってしまった。


 しかし、漢王朝そのものが、すでに司隷東部以外での権威をほぼ失っていること。


 俺の部下が漢王朝の臣下というよりも俺個人の配下であること。


 何より袁紹が漢王室の権威を持っていた袁術と争い、中央とは別に太守や刺史を中原各地に送り込んで税を収めなくなったこと。


 その行為が決定的な漢王朝の権威の低下を引き起こしたが、結局は袁紹は生き残り袁術は歴史から退場することになっている。


 つまり漢王朝の権威というものが武力を伴わなければ何も出来ない、砂上の楼閣だということがバレてしまったわけだ。


「もはや、命令を出したところで従わぬものばかりとなっていることに気が付かぬのかね」


 俺がそういうと賈詡がいう。


「皇甫(嵩)義真殿の家は代々度遼将軍や扶風都尉を務めた武門における名門でございますからな。

 しかも霊帝の公車により直々に洛陽へ招聘されております。

 ですからにはその忠節も天子へと向けられるのが彼にとっては当然なのでしょう。

 そして彼が自らはそう思うからこそ他の者も同じように考えるはずだと思っているのでしょう」


 史実における董卓も、洛陽に入った後は清流派の人間を重要視して、身内ではなくそういった者たちを中央の要職や中原の牧や太守につけたりすることで、漢王室の復興を行おうとしたが、結果としてはそういった連中が一番最初に裏切ったしな。


「まあ、そうかもしれないな」


 しかし、権威というものは権力すなわち武力や財力などがあり逆らうものを従えることが出来なければ意味のないものだ。


 黄巾の乱が起こる前から北方や南方の異民族の反乱は多発していたが黄巾の乱では中原の青州・豫州・兗州・徐州・幽州・冀州・荊州・揚州と言った場所の漢人が反乱を起こした時点でほぼ完全に民心を失っており、そのような状況の中で霊帝本人が黄巾の乱の鎮圧直後に大増税を行って民心の低下にとどめを刺したわけなのだが、それにまだ皇甫嵩は気がついてないらしい。


 冀州での統治に苦労してそれは皇甫嵩も実感してるはずなんだがなぁ……。


 それでも皇甫嵩はあくまで漢の臣である事にこだわったんだな。


 そして、袁術が倒れたからといっても、揚州の劉繇などが大人しくしているわけでもない。


「弘農を抑えるものと、呉を抑えるものに分けて兵を派遣するべきか」


 俺がそういうと賈詡がいう。


「そうですな、その前に袁(紹)本初と同盟を結び洛陽攻撃はあちらに行わせたほうが良いでしょう」


「ふむ、それもそうだがその際に天子はどうするのだ?。

 あちらは天子を新たに擁立しているのだから、袁(術)公路のときのように弑逆されるかもしれぬが」


「袁(紹)本初は確かに漢王室の威光は必要としているでしょう。

 ですが、彼の言葉に従わぬものを担ぎ上げ続けるとは思えませぬ。

 ですので、天子はあらかじめこちらにて確保しておくに越したことはないかと思います」


「ふむ、となるとその役目は曹(操)孟徳に当たらせるのが無難かな」


「そうですな。

 それとそろそろ自ら陣頭に立ち戦うのではなく、また自らが政務をとるのではなく、他の者に任せるようにしたほうが良いかと」


 確かにそろそろ息子が上に立ち、俺は影に徹した方が良いのかもしれぬな。


 今までは武官の将軍として軍政や軍務をやっていればよかったが、これからはそうも行かぬであろうし、俺もそろそろいい歳だ。


「そうだな、今蕭何といえる人物がいれば全部内政関係はなげても良いんだが、なかなかそういうわけにも行くまいしな」


 そんな話をしていたところ、徐州から張昭と張紘、秦松それに諸葛玄が戦を避けて江東へ避難してきたようなので、俺は彼らを参謀兼内政官として招いた。


「わざわざ徐州から遠い江東へ来られるとは。

 徐州も安全ではなくなっているのですかな?」


 張昭がうなずいていう。


「袁(紹)本初は青州の黄巾残党と手を組んで、袁(術)公路の軍を退けましたが、青州の黄巾残党は徐州に侵入し暴れているのです」


「なるほど、そういうことでしたか」


 史実において青州兵せいしゅうへいは曹操が呂布や袁術などと戦う時に主力となって戦った。


 これは曹操が、彼らの宗教である太平道の信教を認める、別の土地のものと一緒に戦わせない、非戦闘員に土地と牛を与えて住むことを認める、という事で味方にしたというものであったが、結果として曹操は青州兵の無法な行動に目をつむらざるをえないところがあった。


 張繍が賈詡の献策により反乱を起こし、長男の曹昂や典韋などが戦死したときには、青州兵が混乱に乗じて味方にたいして略奪を働いた事があり、于禁が激怒してそれを攻撃すると、青州兵は曹操に被害を訴え出たが、曹操は于禁の判断の正しさを認め、青州兵の訴えを退けたりもしている。


 陶謙の部下による曹操の父の曹嵩殺害による徐州大虐殺も、実際は青州兵を食わせるために行ったものではないかと言う話だな。


「ともかくあなた方には私の蕭何となっていただければと思いますぞ」


「それは過大な評価でございますが、私達を上手につかっていただければと思います」


 どうやら袁紹は青州黄巾残党をうまく御することは出来ていないようではあるが、ともかく洛陽の皇甫嵩を俺と袁紹で挟み撃ちにする提案はしておこう。


 そして一番上の息子には戻ってきてもらい、俺の後継者であることをはっきり示すようにしようか。


「そうなると張燕や張楊はなんとかこちらに引き込みたいところであるな」


 演義ではあまり目立たないが并州あたりでの影響力はそれなりにあるからな。

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