光和7年・中平元年(184年)

荊州の南陽討伐に赴く前に皆で話し合いを行っておこう

 さて、黄巾等の反乱の鎮圧に関して、名目上の総大将は大将軍である何進だ。


 彼は美人の妹が天子に見初められて皇后待遇となったことで、大将軍と言う地位に大出世したが、宦官に暗殺された間抜けと言う風に見られることも多いが、もともとは十常侍に含まれる宦官の郭勝の伝で妹を後宮に入れたことでその地位を手に入れたわけで、宦官の十常侍とは仲は悪くなかったし、袁隗・袁紹・袁術ら袁家も味方についたが、そもそも権力争いには巻き込まれたくなかったようであった。


 暗殺されるまでの何進は、公人としては決して無能ではなく、黄巾等の近衛兵の巡回警備で黄巾党のスパイのあぶり出しなどもうまくやっているし、部下にも高飛車ではなく温情を持って接していたためその支持も厚く、本來何進が宦官に暗殺された際には、その配下の多くの兵が何進の敵討ちに憤激し、袁紹らに協力したようだ。


 その何進が言った。


「洛陽の防衛及び前線への糧秣の輸送については私に任せてほしい」


「かしこまりました、では前線の采配は私におまかせいただきますか?」


「うむ、南北の反乱鎮圧の手腕を見る限り、董仲穎の手腕に疑問を抱くものはいないであろう。

 私は洛陽の守備や必要な物資の輸送に徹するので、具体的な軍事行動はすべて任せる」


「ありがとうございます」


 何進の軍事的才能については不明だが、いままでは特に反乱鎮圧などをしたことはないはずなので彼にああしろこうしろと細々と言われたら面倒なことになったろうが、どうやら前線での行動に口出しはしないでいてくれるらしい。


 基本的に彼は洛陽八関である函谷関かんこくかん太谷関たいこくかん廣成関こうせいかん伊闕関いけつかん轘轅関かんえんかん旋門関せんもんかん孟津関もうしんかん小平津関しょうへいしんかんの8つの関の門や弩等の防御兵器を修繕して万一の際の防衛準備を整えることに専念するらしいな、事なかれ主義とも取れるが余計なことをしないでくれるならそれに越したことはない。


「では具体的な反乱鎮圧についてに話を移そうか。

 北中郎将の盧子幹殿は張角のいる冀州河北鉅鹿郡方面、左中郎将に皇甫義真殿は洛陽に隣り合わせる豫州潁川方面で、俺はその後詰めをしつつ荊州や揚州の反乱を鎮圧することを命じられているが、基本はそのままでよいかな?」


 盧植がまずうなずく。


「うむ、北方の地理が一番良くわかっているのは私であろうから否やはないですぞ」


 皇甫嵩もうなずく。


「まずは洛陽に賊徒共が入り込むのを防ぐのが肝要であろう。

 大将軍の出番が無いに越したことはない」


 盧植はともかく、皇甫嵩は何進の軍事的手腕がわからないことからも、豫州潁川方面の賊徒の撃破が優先であると思っているようだ。


「南陽の張曼成も早めに対処せねばなるまいしな。

 これは俺が対処するしかないだろうが」


「では、私は冀州へ赴くとしましょうぞ」


「では私も豫州へ向かいましょう」


 そういって盧植が冀州へ、皇甫嵩が豫州へ向けて、それぞれが精兵4万を率いて軍を進めた。


 皇甫嵩の麾下には袁紹も従っていて、袁術は洛陽に残って何進に従って行動しているようだ。


 宦官の中常侍の縁者であった武都郡の大守をその部下の蘇正和という人物が弾劾しようとした。


 しかし、宦官の報復を恐れた涼州刺史の梁鵠が、部下で蘇正和と仲が悪かった蓋勲に蘇正和を殺させようとした。ところが、蓋勲は”そんな公私混同は出来ない”と突っぱねて蘇正和を庇ったという。


 そして俺が宦官を誅殺したことで梁鵠は免職され、その下の蘇正和と蓋勲も失職したので、俺は蘇正和と蓋勲を直属の部下にしようと呼び寄せた。


「不正を憎み宦官を恐れずに諫言を行う素晴らしい者たちよ。

 私の下で働かぬか?

 私は不正を全く見逃すつもりはないとは言わぬが、行き過ぎたものは誅殺していくつもりだ」


「わかりました。

 ぜひ働かせていただこうと思います」


「私も、貴方の下で働かせていただきたく思います」


「うむ、助かるぞ」


 俺は、張曼成率いる黄巾党が荊州南陽郡の宛城を攻め、南陽太守である褚貢を殺し、宛城を黄巾の拠点としていることについて話し合うことにしたのだ。

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