鐙を作ってみよう、試行錯誤をしながら

 さて、俺がやるべきことは、まだまだたくさんある。


「騎兵を異民族や涼州や并州出身者にばかりに頼るのは危険でもあるし、やはり鐙は開発したいところだな」


 馬に乗るときだけ足場として使う片鐙ではなく、乗馬時に鉄の鎧を身に着けた者が体重をかけ続けてもポッキリ折れたりしない強度を持ちなおかつ、重量がさほどではない鐙を作ることにしたい。


 しかし、青銅では硬さが足りず、銑鉄では脆すぎるのでやはり駄目、鋼鉄を使うなら正直にいえば鐙よりも武器に回したい。


「十分な硬度と適度な柔軟性を持ち合わせるとすると結局革を膠で煮込むのが一番いいような気がするな……」


 馬具としては、乗ったものが滑らずに安定するようにするための鞍と、足を載せて踏ん張れるようにする鐙、あとは騎乗しているものや馬の前で馬を引っ張るものが馬にその意思を伝えるための馬銜ハミ手綱タズナをあわせた頭絡とうらくなどがある。


 頭絡は後期新石器時代の6000年前にはすでに発明されていたと言われているのだが、鞍もかなり古い時代から出現していて、後漢の光武帝の時代には馬朔を用いた特騎突撃が度々行われたが、その際の馬はほぼ使い捨てであったらしい。


 鐙がまだない時代なので特騎の騎兵もなかなか補充はできなかったようだ。


 だからこそ馬に愛着のある遊牧民族は軽装で弓を使うのだとも言われるが、場合によっては馬を使い潰すこともあるからなんとも言えない感じでもある。


 前漢では軽車と呼ばれた戦車がまだまだ使われていて、輜重を積載するための重車とは扱われていたが、平原においては軽車突騎による突撃はまだまだ強かったらしい。


 ただ辺境では山岳や森林など戦車に不利な場所も少なくなく、結局は戦車は運用が難しくなっていくのだが。


「とりあえず膠で煮て硬化させてみるか」


 物は試しと鋼鉄製・膠の革製・木製などをいろいろ試してみることにした。


「こんな感じの形のものを作ってみてくれ」


 この時代でも作れそうな単純な和鐙から作ってみることにする


「わかりました」


 とりあえず作らせてあとは実際に使えるかどうか乗って確かめるしかない。


 そして試作品が出来上がってきた。


「よし、完全武装で武器も持った状態で鐙に体重をかけてみてくれ」


「わかりました」


「うわ!」


 最初は鐙の輪の部分と棒の部分の付け根がバッキリ折れたりして馬の上から落ちることも続出したが怪我のないように麦わらを下に敷き詰めて大怪我をするものがでないようにした。


「もうちょっと強度がないと駄目か」


「そのようですね」


「あとの問題は足が痛いのですけど」


「輪っかに全体重をかけたら痛いのもどおりか」


 足を乗っけるところを板状にしてそれを取り囲むように輪っかのようなものをつけるようにするか。


 日本の鐙も大陸から渡来した時は普通の輪鐙だったが、古墳時代末期にはスリッパのような足先を包むおおいのある壷鐙になり奈良時代には左右が開く半舌鐙、平安時代末期にはそれが発展する舌長鐙となっていった。


 この形状だと足の裏全体で体重を支えることが可能になるため、鐙の上に立ち上がって弓を打つには安定しているが、騎兵槍を抱えて突撃すると衝撃で鐙から滑り落ちて踏ん張れないので日本では騎兵槍が発達しなかったらしい。


 輪型のほうが馬に乗った状態での踏ん張りはきくようなので突撃騎兵は輪鐙の発展型、弓騎兵には舌長鐙をついくるのがいいのかもしれないな。


 これも上級司令官は鋼で作って中級司令官は木製・兵士は煮固めた革製で区別しておくのがいいかもしれない。


 ついでに并州で呂布などにやったように武将志望の子供を集めて馬術や弓術・格闘技などを仕込んでいくとしようか。


 うまくすれば関羽を見つけて育てられるかもしれないしな。


 それと同時に宦官として働いていたものの老齢や勢力争いやらで免職となって乞食になってるものを俺は保護することにした。


 そういった者は力仕事は無理でも読み書き算術などの基礎教育の師匠として働いたりすることは出来るだろうし、今までの宮廷内の諸事情を聞いたりも出来るからな。


 あとは破壊工作や潜入工作などにも従事してもらおうと思う。


 乞食というのはその場にいてもいないものと扱われるから諜報員としてはとても使える。


 遠方の情報は官報や商人などからある程度の情報は入ってくるが司隷の情報を集めるなら官司と宦官は強い影響力を持ってるからな。


 もちろん中常侍とかのように権力を持ってるやつに直接的に近づくつもりもないが、免職された宦官がどうなるかというのを知らせるのにも良い機会だろう。


 劉備は馬良のような名家の士大夫も外交に必要であるから優遇したが、彼らはもともとは武装集団でしかなかったために行政の実務を行う文官を速やかに揃える必要があった。


 そのため元宦官も拾い上げて使ったりしてるんだよな。

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