なんとか槍や複合弓を作り上げたいところなんだがな

 さて、この後漢の時代においては塩と鉄は官製であって、基本的には勝手に民間人が作って売ってはいけないものだったりする。


 これには価格の統制という意味もあるし、国庫の補填の意味合いもあるし、技術の秘匿的な意味合いもある。


 また中国ではもともと青銅を鋳造する技術や陶器のために窯を高熱にする技術もあったことで、鉄器が春秋戦国時代には比較的広まっていたが、武器よりは農具に主に使われた。


 なぜかと言えばこの時代は、銑鉄で硬いが脆いから青銅剣と銑鉄剣が撃ち合えば折れるのは鉄剣の方であったからだ。


 鐙がなかなか広まらなかったのも十分な強度がなかったからだな。


 秦が青銅製の武器を多用したのも、結局は銑鉄よりも青銅のほうが様々な性能的に優れていたからだな。


 もっとも銅と錫は鉄よりはるかに手に入れにくいから、鉄をメインにしないといけない国家も多かったようだが。


 中国の北方では爆風炉を使った銑鉄による大量生産を行っていたのに対して、南部では鉄を熱してして赤くなった鉄の塊をハンマーで叩いて不純物を取り除く鍛造技術が普及し、それにより何度も折り返した鋼の刀が作られるようにもなっている。


 もっとも鍛造はとても効率が悪いので数が作れないから、大量生産の刀は大体はぽきぽき折れることが多い鋳造刀なのだけどな。


 矛が平べったくて厚みがあるのも一つは戦車での戦いではすれ違いざまに横薙ぎにするのが有効だったからではあるんだが、もう一つは細いと簡単に折れてしまうからと言う理由もあったようだ。


「せめて指揮官クラスには鍛造の武器をもたせたいところではあるな」


 鉄は青銅よりも強いとは限らず、その作り方によって強度が変わってしまうのだが、銅器や青銅器が鍛造から始まらなかった中国はかなり特殊な部類ではあったろう。


 また中国ではその人口や兵士の多さからも、生産性の大きな違いから鋳造が伝統的に武器製造に用いられていたりもする。


 青銅を作るには薪をもやして銅と錫を溶かして鋳型に流し込めばいい。


 銅は融点が低いので薪の炎で熔けるからいいが、鉄は薪では不十分で木炭でもふいごと効率的な窯などがなけれ赤熱するだけで熔けるに至らない。


 なので製鉄はまず高温を得るために薪を木炭に炭焼きし、黄鉄鉱を木炭と燃やして銑鉄として融解させ、更に鍛造する場合は銑鉄を赤熱させておいて叩いては折りたたんで炭素を減らす鍛造をしつつ焼き入れを行い一旦冷やして焼き戻しを行うなどめっちゃ燃料が必要だったりする。


 なので売られてる鉄を買ってそこから職人が農具や護身用の武器を作ったりもするのだが、武器の一部は勝手に作ることができなかったりもする。


 弩や矛などの長柄の武器がそうだな。


 刀や弓矢は作っても大丈夫なんだがこれはとうぜん反乱防止と反乱を起こしても官軍が武器で優位に立つためだ。


 特に弩は政府管理の武器として厳格に管理されて、許可無き製造及び保有は厳しく罰せられる、訓練しない歩兵が用いても高い威力を持つ武器でもあるからとうぜんでもあるけど、まあ実際は武器の横流しとかも横行してる。


 もっともその製造や部品の点検整備には高度な技術が必要だったので、そう簡単に作れるものでもないんだが。


「鉄の精製をあんまり進めると禿山や砂漠ばっかりになっちまうしなぁ……」


 石炭を使いそれを蒸し焼きにしてコークスにして燃料にするほうがいいか、植林して森林を保全するようにするのがいいのかなかなか悩むところではある。


 また現状の弓は単弓の短弓であるので弩に比べて射程で負けるが、そのためにも複合弓を開発したほうが良いだろうな。


 複合弓はまず軸になる木製の弓を作り、そこへ弓を引く時に伸びる前側に動物の腱を貼り付け、逆に縮む側後ろ側には動物の角や骨などを膠で貼り付けて強度などを増強するものだな。


 基本的には木製の部分はそれほど厚みがあるわけでなくて基本的には角や骨、腱などを貼り付けるための土台としての要素が強い。


 こういった技術が応用されて弩の弓の部分が作られていたりもするのだが、そこまで張力はいらないが、単弓よりは遥かに手間も時間もかかって結果高価になるのが欠点だったりはするんだよな。


 安くて効果の高い武器というのを作るというのは簡単ではないのだが必要なものでもあるし、官職としてそういったことを比較的自由にできる間にやってしまおう。

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