袁紹ではなく俺の配下に曹操はなりそうだ
さて、このころ袁紹も洛陽に入っている。
袁紹は俺が段熲によって推挙された時に取り立ててくれた袁隗と同族で、汝南の名門袁氏の生まれだ。
袁家は後漢の有力貴族である高門のひとつで袁安から四世のあいだ三公を出す名門となり、父の袁成も五官中郎将なのでエリート中のエリートといっていい。
ただし袁紹は袁逢の嫡子でなく母の身分が卑しかったため、袁術などの政敵に袁紹は庶出だと攻撃された。
こういったことが、血筋を重要視する士大夫にどう見られるかは大きな問題で袁紹の最大の弱点でも有った。
母方の身分というのは貴族では中国においてもとても大事なのだ。
袁紹は庶出であるということが貴族の中では致命的であることもよくわかっていた。
それ故にそれを補うために名声をつくる努力をした。
袁紹は元服してすぐ郎となり、濮陽県長に任命されたが、母の喪によって官職を辞して母と父の喪に3年ずつ合計6年服して家族を尊ぶという行為で儒家の間で名声を養った。
普通はそこまで長い間ちゃんと喪に服すということをしないからだ。
その後、袁紹は洛陽にはいったが官職につくことなく、遊興を好み侠客と広く交わり奔走の友と呼ばれる張邈、何顒、許攸、伍瓊らと交友を深めたのだが、何顒と伍瓊に関しては李膺を味方にひきれた俺の方についているので袁紹の力を少しそいだと思う。
史実でも何顒・伍瓊は董卓のもとに残って、許攸・張邈とは敵対したのであんま変わらないかもしれない。
派手にそういった行動を行う袁紹を宦官で中常侍の趙忠は警戒し、袁隗に行動を改めさせるようにいい、袁隗はそれによって行動を改めるように袁紹を叱ったが袁紹は行動を改めなかった。
袁紹が清流派の政治犯もしくはごろつきのように思われている侠客と交わっていたのも、一つには母方の血筋に関しての卑しさで血筋では袁術と張り合うことはできなかったのもあるが、売官が始まり漢王室や宦官から民衆の心が離れ、清流派が政治に復帰することを望むものが多くなったからでもある。
そうでなければ何顒が清流派の党人を逃がすことはできなかっただろう。
なので本来であれば何顒を通じて袁紹の下で曹操は働くことになるんだがな。
若い頃の曹操を評価したのは曹操の祖父の曹騰の時代から家同時で仲がよく幼少の頃から家族同然の親しい仲だった橋玄と清流派の何顒だけだったんだ。
曹騰に引き上げられた橋玄は度遼将軍に就いていて、他に曹騰が朝廷に推薦した人物に俺の上官である張奐が含まれていることなどから幼い頃から曹操は軍事的英才教育をほどこされ辺境防衛につくことを期待されても居たらしい。
だからその曹操が俺のもとにやってきたのもそこまで不思議ではなかった。
「あなたが張然明将軍の下で若いながら功績をあげて武衛将軍となった董仲穎殿か。
私は曹孟徳、どうかあなたの下で戦わせてほしい」
「そいつは構わないがなんで俺なんだ?」
「あなたは出身や出自で差別することなく公平に部下を扱うと聞いたからです」
「ん、まあそれは確かだな」
「また兵法に親しみ、それ故に異民族との戦いで敗れたこともないと聞く」
「まあ、それも本当だな」
「それに今私が生きているのは、竇游平と陳仲挙がもたもたしている間に、張然明将軍がここへ戻って天子の命により彼らを討滅したからです。
竇游平と陳仲挙が迅速に行動していれば今頃は私も、中常侍の管霸及び中常侍の蘇康と同様に一族もろとも殺されていたでしょう、宦官は兵権は持っていないのですからいざとなれば己の身を守ることもできません。
先の党錮の禁からさほどときはたっていないのに状況はあっという間に変化するのですから怖いものですよ。
また党錮の禁による宦官の士大夫に対する弾圧により、士大夫だけでなく民衆からも宦官は憎悪されています。
祖父が宦官で父はその養子ですから我が曹家も評判はよくありませんしね。
もし天子がなくなれば宦官とそれに伴う濁流は今度こそ誅滅されるかもしれません」
「なるほどな、俺がやってることも当然知ってるというわけか」
「ええ、袁本初ほどにはめだってはいませんがね」
「まあ、名門袁家のお坊ちゃんがやるのと田舎豪族の俺がやるのでは意味も違うだろうしな」
「何れにせよ私はあなたのもとで働きたいのですが認めていただけませんか?」
「いや、いいぜ、来年元服したらすぐ俺の下に入ってもらおう」
「ありがとうございます」
まあ、曹操もかなり気分屋なのであんまり安心もできないが俺の下で働いてくれるってのならしばらく頑張ってみてもらおう。
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