今のうちに有力な人物と接触をとっておきたいな

 さて、洛陽に滞在中の俺だがまず食事に狗・豚・人肉は絶対出さないように料理人に言明してそれらを口にしないようにしている。


 狗と人肉は21世紀の倫理観がまだ染み付いてるせいで、豚は食べさせてるのが大便だから食いたくないという理由だ、イスラム教で豚が不潔と禁止された理由もわかるな。


 そしてせっかく洛陽に来たので参謀系の人物と接触を取ってできれば逃がしておきたいな。


 皇甫規は党錮の禁にかこつけて将軍をやめたがっていたが、やめさせたら嫌がらせにならないしと度遼将軍の地位をえて并州に向っているので彼にかくまってもらおう。


 涼州だと賈詡ぐらい、并州だと参謀的な人物は思いつかないが洛陽なら遊学している教養人もいっぱいいる。


 問題は党錮の禁の影響を恐れて地元へ戻ってしまった人間も多いことなんだが。


 八俊筆頭の李膺などが殺されるのは惜しいし、その他にも陳寔ちんしょく張邈ちょうばく何顒かぎょうなどこの時期に袁紹が洛陽から汝南への逃亡をとりなしたことで黄巾の乱以降に袁紹が勢力を伸ばせる理由になった人物も多い。


 まずは李膺りようにコンタクトをとることにしよう。


「まずは頭を下げて謝るか」


 俺は袁隗経由で李膺のもとへ伝を作って赴き頭を下げることにした。


「八俊筆頭として名高き、李元礼様にお会いでき感激でございます。

 そして我が身の愚かさをどうぞお許しください」


 俺は額を床に擦り付け謝ったのだ。


「いや、君は若く天子の命でもあれば仕方あるまい、私はもう郷里に帰るので気にするな」


 それを聞いた俺は首を振る。


「きっといずれは宦官の手も伸びようかと思います。

 私の以前の上司である度遼将軍の皇甫威明様であれば宦官の手から守ってくださると思いますゆえどうかあの方を頼ってくださいませ」


 そういうと彼はふうとため息を付いた。


「やれやれこの年寄りにまだ働けというのかね」


「護烏桓校尉や度遼将軍として辺境へ赴いたこともある李元礼様であればおわかりになるかと思いますが、現在辺境の民は異民族の襲撃に怯え、生きるので精一杯でございます。


 どうか彼らをお助けくださいまし」


 俺のその言葉にハッとなる李膺。


「ふむ、漢王室のためではなく民のためか……わかった皇甫威明の手助けをするとしようか」


「ありがとうございます」


 こうして李膺と彼を師として慕う荀爽じゅんそうや仲の良かった陳寔その子供の陳紀 ・何顒かぎょう伍瓊ごけい等が皇甫規のもとへ向かい、俺は皇甫規に手紙で事情を伝えて彼らをかばってくれるように頼んだことで登龍門が并州に開かれたのだ。


 何顒はその後に洛陽に潜入して党錮の禁で弾圧された党人達を救出し并州に逃がすという役割を果たした。


 さらには荀爽の甥であり後には曹操の参謀として有名になる荀彧じゅんいく、その従子の荀攸じゅんゆうなども党錮の禁の難を避けるためにやってきてくれたようだ。


「これで後々いろいろだいぶ楽になりそうだな」


 この時期の李膺という人物の影響力は決して小さくないはずだしな。


 残念ながら張邈ちょうばく許攸きょゆうなどは袁紹を頼って汝南に行ってしまったようだがこれは仕方あるまい。


 袁紹が声望を集め、反董卓連合軍の盟主になり、冀州で繁栄し曹操に倒されるまでは最も有力な勢力と目されていたのも、袁家が四世三公の名家の出というのもあるし、それによって得た辟召と呼ばれる官司への推薦制度によるものもあるが、袁紹が清流派を逃してかくまったことにより、命を救われた者が多かったのもあり、それにより袁紹は人望が有ったのも事実だったのだ。


 家柄は良いが人望はいまいちな袁術とは結構対照的でもあるな。


 一方、曹操は14歳でまだ未成年扱いで、彼が元服して出仕するのは熹平3年(174年)。


 曹操は孝廉で推挙されて中郎となるのだ。


 そしてちょうど今頃が何顒と曹操の繋がりができているころのはずだ。


 曹操もうまくすれば俺の下に入ってくれるかもしれんな。


 売官が表に出てきていることから父親である曹嵩の財力で誰かの推挙を得て官位を買うことも可能だろうが、中常侍の管霸・蘇康らが誅殺され他の宦官も皆殺しにになるところだった事に気がついた曹操は濁流に与するのは危険と感じているだろう。


 その予感は命中していずれ宦官と濁流派は袁紹によって皆殺しになるのだけどな。


 まあ史実通り袁紹の下に付く可能性も高いけど。

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