洛陽は思ってたより汚い、そして党錮の禁は止められず

 さて、袁隗への礼を終えた俺は張奐のもとへ戻っていた。


 途中でそして肉屋を見かけて俺はげんなりした。


「そういや、この時代の肉屋はこんなもんだったな」


 鈎に引っ掛けられたり、縄で吊るされている肉は腐敗しやすい内臓などは取り除かれているが結構原型をとどめて蝿がたかったりしてる、そしてのその中におそらく人間の足であろうものが堂々と混ざっていたりするのだ。


「はあ、やだやだ俺はいつまでたってもあれはなれねえな」


 店頭に繋がれている赤犬を棒で殴ってそのままさばいたりとかもやっぱなれねえな。


 人肉も狗の肉もうまくないという理由で俺には出されてないのが救いだが。


 無論俺も遊牧民に近い涼州で生まれ育ってるから放し飼いの鶏を捕まえて首を切ったり、羊や山羊をナイフでかっさばいて潰したり、狩った鹿や兎や野鳥をさばいたりはするんだが。


 あと洛陽の市場ははっきり言えば不潔だ。


 家畜が売買されてる一角などは特にそうで家畜の糞尿が垂れ流しだったりする。


 いや下手すると人間の糞尿も路上に放置されてるような気がする。


 この時代の便所は豚便所といって豚のいるところに大便をしてそれを食わせる事が多い。


 だからこれ疫病の際にやばいことになるんだよな。


 屋敷の中では廁牏という木箱型便器というか四角いおまるのようなものが使われてる場合もある。


 日本でも樋箱と呼ばれて江戸時代まで使われてるのでこれまたおかしくはないが、こまめに中身を捨て洗わないと臭いがやばいんだなこれが。


 ボットンみたいなものも有ってそこにためた人糞は醗酵させて堆肥に使うこともある。



 田舎なんかだと結構これも多い。


 少なくとも現代日本の時に比べれば全然不衛生で、涼州に比べて人が段違いに多いのもあるんだろうけど、中国人はあんま衛生観念がない気もする。


 そんな事を見ながら張奐のもとへ戻ったのだが彼の表情はすぐれない。


「張然明様何か有ったのですか?」


「うむ、曹漢豊に言われたのだ。

 天子の言葉によりその方が竇游平を討てと」


「やはりですか、ではいかがするのでしょうか?

 袁次陽様はこの争いに加わる様子はないですが。

 段紀明様であればすぐさま応じ竇游平を殺そうとするでしょうし、皇甫威明様であれば逆に竇游平に力を貸して曹漢豊らを討つでしょうが」


 張奐は帰命してすぐに、宦官から天子の命令を記した絹布を見せられたらしい。


「だが、天子の名での討伐の対象となっている竇游平は、去年まではただの城門校尉だった。

 それが娘が太后となったことでいきなり大将軍に出世した。

 梁伯卓も同じようなものだったはずだ。

 しかもその前の歴代の外戚もだいたいろくでもなかった。

 そして、なにより天子様のご命令であればうけねばなるまい」


「曹漢豊に従うのですか?」


「曹漢豊ではない天子様だ」


 もし竇武が得た地位が大将軍ではなくて三公九卿くらいだったらまだ良かったのかもしれないが梁冀を思い起こさせる大将軍の地位についたことで張奐は竇武の方をむしろ警戒してしまったらしい。



 俺はため息を付いた。


「では竇游平を討つのですね」


「そうなるな」


 すでに宦官の王甫は、剣士をひきつれて陳蕃をとらえ、拷問で責め殺している頃かもしれない。

 もともと延熹8年(165年)に長女の竇妙が桓帝の後宮に入って撰ばれて貴人となり、時を置かず皇后に立てられ、外戚となった竇武もそれにより出世し槐里侯に封じられたが、外戚ゆえに引き立てられ厚遇を受けていることを知る竇武は自らの行いを清め、一族にもそれを勤めさせ、礼としての賂さえ慎んで清名を得、名士を数多引き立てて、他者の嫉視に備えていたし、第一次党錮の禁を解いたのも彼のはずだ。


 そして桓帝が崩御して霊帝が即位すると竇武は大将軍になり、大将軍として自らの政権を磐石にしたい竇武と、清流派の雄として賄賂の横行で政府が腐敗することを憎む陳蕃は、宦官排斥で目的が一致し、竇太后に宦官を除きたい旨を伝え宦官の尽くを廃するのは止めて欲しいので、除くなら罪のあるものだけにすべきとの竇太后の返答を得て中常侍の管霸及び中常侍の蘇康等を誅戮していた。


 竇武・陳蕃は続いて曹節等を除きたいというが竇太后はこれを許さず、結局竇武・陳蕃は宦官一掃を計画するのだが一気呵成に成し遂げることを主張する陳蕃に対し竇武は万全を期すことを主張し計画は長楽五官史の朱瑀へ漏れ宦官側に知れ渡り、竇武・陳蕃は今上帝の廃立を図っていると濡れ衣を着せられ、兵によって攻められることになった。


 大将軍の竇武は中央軍である五営を動かし、宦官側は近衛にあたる北軍五校士数千人を動かし、両者は衝突したが張奐や俺たちが率いる騎兵は歩兵中心の五営を圧倒し、竇武は敗れ逃亡したが、ついに包囲されて自殺した。


「これでよかったのですかね?」


「仕方なかったのだよ」


 この功績により、張奐は侯に封じられ領地を持つことができたがその表情は冴えなかった。


 本当にこれでよかったのかなと悩んでいるんだろうが、これが権力争いに巻き込まれるということなのだろうな、まったくもって怖いことだ。


 もっとも仕方なかったというのも一理はあると思う。


 竇武と陳蕃はうだうだ悩まずに最初から宦官を皆殺しにするべきだったのだ。

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