　ある時代の日本では、特殊な加湿器「ポジティバイア」が流行していた。

　そこから放たれるスチームを浴びれば、どんなにイヤなことも忘れられる。

　仕事で失敗しても、学校で先生に叱られても、近所の誰かから毎日嫌がらせをされていてもだ。

　おかげで日本中の精神衛生状態はよく、過去数年でうつ病が激減したという。

　しかし結果として、イヤなことを忘れられる加湿器は、日本を良くできなかった。

　むしろ悪くなった。

　加湿器のスチームを浴び続けた結果、仕事で失敗をした人は反省を忘れ、次の日にまた同じ失敗をする。

　学校で先生に咎められた者は、次の日もまた同じ悪いことで先生を怒らせる。

　そんな状況だから、社会全体で生産性がダウンした。

　学力の世界順位も、GDPもガタ落ち。

　おかげでポジティバイアは所有禁止。

　日本はそこから「失われた20年」を過ごすハメになった。

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