　ワイングラスが、いつの間にか宙に浮いていた。

　持つ手は見えず、机や地面からも遠く離れている。

　というか、私はついさっき、そのグラスに入った赤ワインを飲んだばかりだ。

　何気なく下を向いてみると、胴体が消えている。

　それだけではなく、足も右手も、左手も見えない。

　体の感覚だけは、今までのままだ。

　右手にあたる場所では、グラスの首をつまんでいる指の感触がしっかりとわかる。

　まるで宙に浮くグラスをつまんでいるように。というか、実際に私はそれを持っているはずだ。

　私の体が、どこにも見えなくなった。

　明日は会社の人たちにどう釈明しよう。

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