こんな物語どうですか?

黒河内悠雅

好きって言ったら怒る?〜炭酸の強いラムネは涙の味がした

お盆の帰省

「好きって言ったら怒る?」


そう彼女は僕に告げた。

僕は開けたばかりの炭酸の強いラムネをゴクリと飲み干す。

なぜか、それは少し苦くてしょっぱくて涙の味がした。


夏の暑い日。

8月に入るといよいよ夏の暑さもピークを迎える。

門真祐介は1年に1回、避暑地として父親の実家がある滋賀の田舎にやってきていた。


「ただいま〜。」


祐介は持っていたうちわをパタパタしながらいつでも開けっ放しの引き戸をガラガラと開けた。


「おや?祐介じゃないか!おかえり。」


「あらあら、まぁまぁこんなに汗をかいて。

暑かったでしょ?冷たい麦茶があるから飲むかい?

これから冷や麦を茹でるんだが食べるかい?」


70を越えているにも関わらず、また田んぼと畑の世話を難なくこなす祖父と祖母が出迎えてくれた。


「ありがとうおばあちゃん。食べるよ。

それより…2人の方が汗かいてねぇか?」


サンダルを脱いで段差を上がり2人が涼し気な畳の部屋へと向かうのについて行く。

いつも座っている座布団に祖父が腰を下ろし机に置いてあったトマトときゅうりを祐介に差し出した。


「ほれ、今日採れた夏野菜。食うてみぃ。」


「いいの!?」


「当たり前だろ?今日、お前が来るって正人から聞いてたから取っておいたんだ。」


「やったぁ!」


祐介はトマトに手を伸ばしかぶりついた。

みずみずしくトマトとは思えないほど甘い。しかし程よく酸味のある祖父と祖母が作るトマト。

それは暑い夏の水分補給にはうってつけ。

夏の日照りに失われた水分が体に染み渡るようだ。


「そういえば、祐介。お前は仕事はどうなんだ?」


美味しそうに頬張る祐介に祖父は嬉しそうにニコニコと笑っている。


「え?あぁ。まだ、担任につけるか分からないけど。今は臨時教師ってとこかな。」


「そうか。頑張ってんだな。」


「まぁね。でもやっぱり教師は離職率が高いって聞くほどってのがよく分かったよ。俺ですらこき使われてるからな。」


「ハッハッハ。やんちゃ坊主で体力バカだったお前が音を上げるなんて。

余程、東京の教師ってやつぁ大変だな。」


「うん。まぁね…」


祐介は苦笑いをした。

そこへ祖母が冷や麦の入ったボウルとつゆの入った小さな器3つをおぼんで持ってきた。


「さぁさ、冷や麦が出来ましたよ。」


祖母は祖父の隣に座り各自の器と箸を並べる。


「あぁ、ありがとうな。」


祖父は受け取ると早速、自分の分の麺を取りズルズルと音を立てて啜った。


「……そういえば、詩歩は?連絡きた?」


その言葉に2人は困ったように目を合わせた。


「あのね…よく聞いて欲しい…詩歩ちゃんはね…」


そこから祐介はどうやって歩いたか分からなかった。


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