ラブコメ部(非公認)の広報

いと

第1話 ラブコメは作るもの

 私立愛米まなごめ学園には奇妙な噂がある。

 ラブコメ展開が異様に起きやすいという、どこぞのライトノベルでありそうな噂が。


 しかし、この噂には知られていない部分がある。

 ラブコメ展開は起きやすいのではなく、起こされているのだ。人為的に。

 しかも、このラブコメ展開まさかの依頼制である。

 1年B組の一人の少年へと頼むのだ。その少年の名は神崎空人かんざきそらと。ぼさっとした、いかにも整えていない髪を持つその少年は、ラブコメをこよなく愛するオタク、というわけでもなく普通の高校生だ。そんな彼が所属、いや立ち上げたのがラブコメ部。もちろん、非公認。


「はぁ、うちも早く彼氏欲しいなぁ」

「なぁ昨日のアニメ見た?」

 連休明けの月曜日の朝のHRホームルーム後、様々な会話が飛び交う教室の片隅で空人そらとは考え事をしていた。それも、空人が所属する部活に依頼がきたからだ。


 時は2週間前に遡る。

 六時間目の授業も終わり、多くの生徒が部活へと足を運び、静かになった教室で空人はミステリー小説を読んでいた。そこへ、こんこんと小さなノックが聞こえたかと思うと、「すみません、神崎君はどこにいるか知っていますか?」と、か細い声が空人の耳に入った。「俺が神崎だが、用件はなんだい?」そう言ってから、空人は本を閉じ、顔を向けた。

「神崎君の部活のことでお話が……」

「あぁ、依頼ね。了解。詳しい内容を教えてくれるかな」

 空人が優しく言葉を返すと、依頼者の少女はポツポツと話し始めた。

 1年C組で名前は鳴沢千尋なるさわちひろ。男子バスケ部のマネージャーをやっていて、2年E組の松草友一まつくさゆういちに恋焦がれていた。


 ここまでの話を聞いた空人は少し、思案した後、千尋に後はこちらで対処するから、今日は帰るように言った。


 そして、今に戻る。空人は迷っていた。依頼を引き受けたはいいものの、条件がかなり特殊だったからだ。



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