第5 ゲームオーバー
水坂と倉間は日坂メンタル診療所にきていた。
「俺はもう、現実に帰りたいよ。長時間いなくたっていいじゃないか」
「一度、現実に戻ると、それはそれで次に没入できるのが一日かかる」
「デジタルの世界にきても面倒だらけじゃねえか」
「文句言うなよ、こういう欠陥もあるから私はゴミ箱に捨てたんだよ」
「けっ、まじでどこの清掃業者がご丁寧にゴミを拾いやがったんだ」
倉間の皮肉と悪態がとまらない。
「ちょっと倉間うるさいぞ」
「すみませんね、この世界の副作用のせいでイライラする」
倉間が髪を搔きむしる。
「電子世界の中で、現実のようなストレスは体感できないぞ」
「こうしてるのが落ち着くんだよ。ああ、わかりそうな気がする」
倉間は辺りを行ったり来たりしながらぶつぶつつぶやく。
水坂も日坂もキャンディを取り出し、舌を転がしながら倉間を静観する。
「古典的か」と水坂。
「いやここは伝統的と言っておこう」
と日坂はフォローを入れる。
それらのやり取りも聞こえず、倉間は行き来する。
「次は、cのつく自然系ワールドの可能性が高い」
「シー? イニシャルのcか? なんで英語なんだ?」
「それはジャングルで海はオーシャンだからな。jungleとocean」
「答えになってないぞ、もう少しわかりやすく教えてくれ」
「さっき鮫に俺たちは襲われたからな。本来ならあのワールドに鮫は出てこない。
ならば、あれも犯人からのヒントだ。犯人は頭文字で何かを伝えようとしている。でなければ鮫である必要がない。さっき鮫映画の話をしていたが、鮫映画の代表作は、ジョーズだ。JとOでジョーって読めってことだろう」
「そうとは限らんだろ。映画はJAWSだろ?」
「だがジョーの発音はオーだから問題ない……と思われる」
「いまいち、よくわからないな」
「無茶いうな。本来ならもっとつらつらと事件が起きてわかってくるところをたったの二文字で推理してんだぞ。……で、続けるとJとOの次に来るのはかなり限定されるわけだ」
「JOB?」
「三回で事件が終わればいいが」
「その文字の後に続くとかは?」
「そういうのも考えたが……やはりここは」
「そうか、倉間がそういうなら私は従うさ。やはり、私は科学を考えてるほうが好きだ」
「なんだ、俺は議論が好きなのに」
「私は面倒。それでcのワールドを探せばいいんだな」
水坂は空中で指を動かす。
「なぁ、それ、どうやってんだ」
「このネットワークそのものにアクセスしてる。外部からのアクセスができても、内部から人間が操作するのは世界初だぞ」
水坂のドヤ顔に倉間は興味を示さない。
「へえ、そりゃすげえな」
水坂は倉間の反応も気にせず、ドヤ顔のまま、何かにアクセスしていく。
「cのつく自然のあるワールドは……妖精になって飛行する<fairy cape(妖精の峡谷)>か雲を自由自在の形にして楽しむ<cloud makers(クラウドメイカーズ)>か、洞窟を掘る<cave! cave!(ケイブケイブ)>、磁力が飛び交う<magnetic continent(磁力大陸)>」
「割と絞れたほうか……しかし、それでも絞れないな」
ワールドの数は有象無象である。ノクティス社の社長は、世界各国の演出家、脚本家、小説家等を集め、多額の賃金で雇い、ありとあらゆる世界を創り出した、言わばこのネットワークの創造主である。
「どの世界もシラミ潰しにあたってみるのはどうだ」
水坂に期待の表情が浮かぶ。
「だめだ、危険すぎる。さっき鮫に襲われたのを忘れたのか」
「私は襲われてないし、私が処理したじゃん」
「ああ、そうだな! 俺が鮫に襲われたがな」
「素晴らしい倉間の人柱により、私がブラックホールを生み出した。それでいいじゃないか」
「あのなぁ、俺の本業は、捜査であって、人柱じゃねえんだよ」
「刑事は市民を守るのが仕事だろ。私を守って当然だろ、ましてや人間国宝級の私を」
水坂がいうことは尤もな事で倉間もぐうの音もでない。倉間も、天才探偵を続けられたら同じ土俵にいたかもしれないが。
「くそっ、絶対返り咲いてやる」
「で、どのワールドに行くんだ?」
「おまえが選べ、ここからはローラー作戦をする」
「それじゃあ、妖精の峡谷で」
「科学者の割にそんな可愛いものでいいのか」
「倉間君。君は四六時中ずぅっと事件について考えるのかね。頭の休息も必要だぞ。それに、真逆のものに触れてるときこそ、本質に気づく事だってある。年のせいで頭が凝り固まったのか」
「俺は老けたのか、そんなの初めて言われたな」
高校生探偵から刑事になることを、倉間は落ちぶれたと思っているが、本来はエリートであり、誰も倉間に何も言えなかった。高校生時代の功績を知らない人はいなかった。また、科学に絡まない推理力はある為、アナログ的事件で、倉間は重宝されていた。しかし、科学的革新の時代を迎え、時代の老害として埋もれてしまうなら、科学的知識を取り入れて<現代版>倉間になってほしいと願うのが周囲の見解だろう。水坂は純粋に倉間の推理力を知っていたから呼び出した様だが。
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