第3話 欠点
家の中は、白い空間だった。その中に、木の椅子と机が置いてある。
倉間は椅子に腰掛け尋ねる。
「本題を聞こうか。いつまでもネットワーク内にいたら酔いがくるんだろ?」
「私が君に繋いだのは、新型のダイバーだ。そうは簡単にならん」
「何時間ぐらいもつんだ」
「多分三日」
「わかった、改めて本題を、秋坂教えてくれ」
秋坂は待ち侘びたように、ため息一つする。
「まずは、質問だ。私は毎日どれだけのネットワーク患者の相手をしていると思う?」
「さあ、50……多くて70人ぐらいか」
水坂は笑いこける。秋坂は呆れているようだ。
「君ね、このネットワークのユーザー数をなめてるのか。1億人がいて、そのうちの10万人だ。今もこうして話しているようだが、同時に一万人以上の相手をしている」
「どういうことだ、誰も診療所に来てもいないじゃないか」
水坂は、さらに大笑いする。
「私は、電子そのもののようなものだ。簡単に他人のネットワークに入り込める」
「で、俺はなにをすればいい。さっぱりわからん」
「で、私は患者を管理してるわけなんだが、その患者がネットワーク内で殺人をしていてね」
「そんなの逮捕すればいいだろ」
「勿論そうなんだが、その事件がまた特殊でな」
「赤い帽子のおじさんみたいなのがアクロバティックな動きで殺人するのか」
倉間は冗談のつもりで口にしたが、空気は沈んだ。
「それならまだ救いがあったかもな。どこかの桃色のお姫様でも誘拐して取引できただろう」
「話のわからんやつなのか」
「わからない所か、捕まえられないのだからタチが悪い」
「捕まえられない……ネットワーク特有の事件か」
「そうなんだけどね、まあ、とりあえずこの動画を見てくれよ」
空間上に映像が浮かび上がる。
そこには、プレイヤーがマントで空を飛びながらレーザービームでビルを破壊し、車を破壊し、人が焼かれ死んだ光景があった。
「正義のヒーローぶった何者かの悪事にみえるが」
「これはな、本来どれもこのネットワーク内でできることをしてるんだ」
「それ関係あるのか、ここに来たことと」
「もともとこの犯罪者は私の患者だ」
辺りは鎮まり、風の音だけが聞こえる。
「……つまりは、精神異常からこのような事が起きた、と言いたいのか」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ただわかることは、セキュリティが破られている。このネットワーク内では本来、プレイヤーに攻撃できないし、限られた場所でしかビームも出せないし、空を飛ぶこともできない。このマップはジャングルに覆われた町で生活するというコンセプトで超能力が使えるはずもないんだ」
「いや、さっぱりわからない。で俺はどうしろっていうんだ、サイバー犯罪の類も勿論わからないぞ」
「どうしてこんなことができたのかという謎と、犯人を捕まえたいんだ」
「いや確かにそこだけ聞くと、俺の分野かもしれない。しかし……」
「水坂と組めば解決できるだろう」
「わからないことはなんでも聞け。私が教えてやる」
「断りたいのは、やまやまだが、俺もホシは欲しい」
「オヤジギャグか、つまらんぞ」
「んなこと言うつもりねえよ」
倉間は水坂の頭のあたりを軽くこづこうとしたが頭をすり抜けてきた。
「ふふふ、自動回避機能だ。どうだすごいだろ」
倉間は信じられないのか。何度も腕を水坂に透過させる。
「嘘だろ……まるで透明人間だ」
「実体が見えるからホログラフ人間のほうが近いだろ」
「すぐに元に戻せるのか」
「ああ、今なら握れるぞ、手を出してみろ」
倉間は水坂と握手する。
「ん? 冷たいな」
「……まだ、温度調整できないんだ」
「ああ? そうか? それで俺の見解を話してもいいか」
「なんだ、改まって」
「俺は、発言に慎重なんだよ」
「好きなように言えばいい。私も秋坂も気にしない」
「この犯罪は1回きりで終わらないということだ」
「なぜ、そう思う? この犯人の所在について私はまだ教えてないんだが」
「こいつは自分自身が意図しない行動だからだな、顔がマスクでよく見えないが挙動がおぼつかない。本来できない事ができてしまう。じゃあ外部からの操作とかんがえるのが一般的。人を操ることだってこの世界ではおそらくできるんだろう?」
「そうだな。電子ネットワーク基本法違反ではあるが可能だ。だが、それでもビームや飛行についてはどう説明する?」
「それはしらん。そっちの分野じゃないのか」
秋坂は腕をクロスさせてバッテンする。
「私は人の心以外わからないぞ」
水坂は、腕を組んだ。
「わかってる、ハッキングってことぐらいな。だがハッキングされた痕跡が見つからないんだ。当の本人は自殺しているしな」
「で、秋坂の観点ではどうなんだ。メンタルの異常でこんな行動はありうるのか」
「脳に異常をきたし凶暴になるということはあるが、ビームだしたり飛行ができるようになるわけがない。ビーム出したいから出して、空を飛びたいから飛ぶなんて事は夢でしかありえない。ここは電子ネットワークだからな」
「色々、思うことはあるが犯人の方向性を決めてしまうのは危険だ。今は俺たちの机上の空論にしておきたい。それに俺はこの世界についてよく知らない」
「そりゃそうだな。この世界を見てこよう」
「このネットワーク世界は水坂が作ったのか」
水坂は首を振る。
「いいや、作ったのは、滝澤鋼大博士だ」
倉間は水坂の目の翳りをなんとなく感じていた。
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