第二十九話 ヴァルナルからの返信
先の書簡往来において、ミーナがヴァルナルに送った手紙について一部を抜粋
『若君のご希望で、食事の際、私とマリーがご相伴にあずかるようになりました。よろしゅうございましょうか?』―――― 。
◆
ヴァルナルはこのミーナからの手紙を帝都に向かう道中で受け取り、すぐに返信を書き送った。
『
道中からの便りである故、早速のことについて申し上げる。
もし、この事についてやかましく言う者がいれば、私の同意書を同封しておくので、それを示すように。少々、厳しく書いているので、もはや何を言ってくることもないはずだ。
基本的に息子の件については、私よりも貴女の方が配慮が行き届いているだろうから、今後も息子の為になると貴女が判断したことに関しては、私は全面的に同意する。
ただ、今後とも息子に関しての報告はお願いしたい。
以前にも話した通り、私は長らく息子を放任してきた。
自らの力で産声をあげることもなく、脆弱に生まれ、産婆や医師からも長く生きることが出来ないと聞かされて、諦めてしまっていた。
その後に戦に向かうこともあり、親子としては稀薄な関係になってしまったが、それは私の勝手な言い訳に過ぎない。
息子には本当に申し訳なく思う。私は長年、親としての務めを果たしてこなかった。しかし貴女からの話で、息子がとても思いやりある子に育ったことを知り、安堵している。
今更ではあるが、息子には今後は親らしく接したいと思っている。そのためには、彼のことを知らねばならぬ。
乱筆乱文にて失礼。
◆
そこでヴァルナルは一旦筆を置いたのだろうが、ふと思い出したようである。『追伸』と書かれた後に、
『栞をありがとう。早速、使わせていただく』
と、一言添えてあった。
それまで堅苦しい文章で書き綴られていたのに、不意に『ありがとう』と素直な言葉が出てきて、ミーナは思わずフフッと笑ってしまった。
なんだかその部分だけ、少年のようなヴァルナルの姿が透けて見える。
「どうしたの?」
オリヴェルとマリーが不思議そうに見つめる。
「いえ…この前の栞を喜んでくださったみたいですよ。良かったですね、若君」
オリヴェルはホッとした顔になった。
◆
ミーナはその後、まだヴァルナルが道中であることに気を遣って返信を控えた。
伝令もミーナにヴァルナルの手紙を渡すなり帰ってしまったので、まさか別の伝令を立てるわけにもいかず、ヴァルナルから帝都到着の便りがあるまでは…と待つことにしたのである。
そのせいなのかヴァルナルは道中、少しばかり不機嫌に見えた……とは、副官カールの弁。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます