令和版かくりよ絵巻

花道優曇華

第1話「かくりよ」

栗花落 霞。この季節になると様々な出会いや新しい環境に適応する必要がある。

ここに、妖怪たちが住まう世界かくりよに来た日。自分でもよくもまぁ、

あっという間に適応したなと思っている。

当時は18歳、高校を卒業したばかりだ。その春、何が起こったか分からないまま

自分は気が付いたらそこにいたのだ。


「可笑しいな…服は、変わらず…」


次代を遡ったと錯覚させる風景。後ろを向いても、前を向いても、左右を向いても

先まであったはずの古びた鳥居もコンクリの道路も無い。ならば歩く。ここで

立ち止まっていても帰ることは出来ないのだ。

数人とすれ違う中、彼らが人間ではないと理解した。いや、凄いな私。動じてない!

背後からの気配には敏感になっていて、霞は歩みを速めそして走り出す。

土地勘は無い、曲がり角を曲がって上手く相手を撒く。が、そんなことをしても

彼らは人間では無いのだ。何と、彼らは屋根に上ってそこから奇襲してきた。


「うわっ―!?」


彼らは人らしからぬ容姿をしていた。真っ黒な不気味な姿をした彼らは

霞に襲い掛かる。彼女も死を覚悟したし、怪物たちも仕留められると確信する。

それを阻止したのは鬼だった。


「迷い込んできた人間を喰らおうとは、意地汚い鬼だな」


上背のある男だった。彼の放った炎を浴びて怪物は消えた。霞は振り返った

男を見て、目を輝かせた。


「お、おおお、鬼だ!!!鬼だよね!?鬼ですよね!!角があるから鬼!」

「ま、待て待て!落ち着け!鬼であることは否定しないが、説明が必要だろう」

「いいえ。鬼を前に説明不要です!あ、でも、つまりここには妖怪しかいないって

事ですよね?凄い!妖怪!!」


彼の想像していた反応とは違った。彼女は人間なのだが、妙に妖怪に興味津々だ。

一度ついた火を彼女は理性で消した。改めて、落ち着いた。


「刹那というのが僕の名前だ。驚いたよ、君の反応に。何せ人間とは本来、妖怪を

恐れ、忌避する」

「そうでしょうね。でも人間と妖怪の間だけではない。人間同士だって同じだよ。

自分と違う他人を恐れ、忌避する。私は栗花落 霞、見ての通り普通の人間の

妖怪マニアです」


当時の事をよく覚えている。この時、刹那さんに出会えて良かった。

霞と刹那、人間と鬼は並んで通りを歩く。


「このお面、何か妖術的なのが掛かってるんですか?」

「そう。ここでは人間は目立つ。先の様に襲われることもあるだろうからね。

暫く君は戻れない。まぁ、あれだけ僕を見て嬉しそうにしていたから大丈夫だろう

けど衣食住を僕が保証しよう」

「そしてタダでは無いと」

「分かってるじゃないか。交換条件だ」


鬼、その中でも高等な鬼神である刹那から告げられたのは彼が大旦那を

務める宿屋で働くというものだ。そこで霞は深く思案する。先のテンションとの

差に刹那は少なからず困惑していた。


「お客さんのお相手は出来るか…料理は、出来るけど自信があるとは言えない…」

「難しく考える必要は無いよ。お相手が出来るのなら、僕はそれを任せたい」


ふと霞が足を止めて、ビラを拾った。質素なビラを見て目を細めた。


「これ…ホントに人、来てるの」

「おや?これは、僕の宿の…」

「えぇ!?風連屋って、ここで働くの!?」

「勿論。この辺りでは一番の宿屋さ」


霞は改めてビラを見る。これで人が来るのか。自分が客の立場なら、もっと

インパクトのある広告を作るのだが…。彼女の様子を見て刹那は彼女に

声を掛ける。


「なら、君には広告係もお願いしようかな。まだまだ名前が広く知れ渡っている

訳では無いからね」

「任せて。こういう広告のデザインを考えるの、大好きだから」


長らく歩いて、ようやく刹那が大旦那をしている宿屋、風連屋にやって来た。

橋を渡り、巨大な建物の中に入る。



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