協調性

「あら? はるとくん、みんなと一緒に遊ばないの?」

かなこ先生がそう言ってきたとき、ボクは虫の図鑑を見てたんだ。


「ボク、これが読みたいから、いいよ」

かなこ先生は、ふぅ、と、ためいきをついた。

「今はお外であそぶ時間なんだけどなぁ」

「あっ、いいこと考えたよ」

ぼくは、図鑑を持ったまま外に出て、園庭にある、外から二階に上がる階段に座って、読み始めたんだ。我ながら、いいアイデアだと思ったんだけど、かなこ先生は、「はるとくん、それはダメ。本はお部屋で読みましょう」

って言って、ボクの読んでた図鑑をとりあげてしまったんだ。ボクは、先生の言ってることがさっぱりわからなかった。

「いい? 今は、お、そ、と、で、遊ぶ時間。ほら、たけるくんたちとサッカーしないの?」

「え~。だって、上手にパスができないと、みんな怒るんだよ?」

「そう。じゃあ、しんごくんたちと色鬼したらどうかな?」

「鬼ごっこはいいよ。だって、鬼になったらどうしよう、って思うとすっごいドキドキしちゃうじゃない?」

「ん~。じゃあ、みどりちゃんたちとままごとはどうかなぁ」

「だって、お父さん役は無理だよ~。ボクんちのお父さん、ほとんど家にいないもん」


 かなこ先生は、また、ふぅ、ってため息をついて、ボクの顔をのぞきこんだ。

「あそびの時間、終わっちゃうよ?」

ぼくは、それ以上かなこ先生を困らせたくなかったから、小さい黄色のバケツと赤いシャベルを持って、砂場に出かけた。そして、やよいちゃんのそばで砂を掘って、バケツに入れて、ひっくり返して、山を作ったりした。やよいちゃんのことは好きでも嫌いでもなかったから、時々つまんない話をしただけだったけど。

 

 かなこ先生の方をチラッと見ると、先生は、もう、他の子のところに行ってしまってた。

「ふーん。これでいいんだなぁ」

大人の考えてることはよくわからない。でも、大人が「いい」って決めたルールは、ボクが変えようとしてもダメだった。なんで大人の人が決めたことはよくて、ボクの決めたことはダメなんだろう? ボクはいつも不思議に思っていた。


「ちょっと変わった子ですよねぇ。いつもみんなと遊ぼうとしないんです」

「協調性のない子ってたまにいるわ。個性だと思えばいいのよ」

「個性、ですか……」

「ホントに困ったら、連絡ノートに書いて、父兄に渡しちゃえばいいの。そんなとこまで、こっちは責任とれないわよ」

「はぁ……そうですよねぇ」



「ねぇ、連絡ノートにさ、『遊びの時間にみんなと外で遊ばず、室内で本を読んでいます。何故みんなと一緒に遊ばないのか、はるとくんとお話してみてください。』って書いてあるんだけど、どう思う?」

「ん~。そういうのはさ、人それぞれじゃねえの? 別に『遊びの時間』に本読んでたっていいじゃないか。本人がそっちが好きなんだったら。それじゃダメなのか?」

「『遊びの時間』は、外遊びの時間で、お日さまの下で遊ぶことでなんたらホルモンがどうとかこうとか言ってたなぁ、この前のPTAの会合で」

「ふーん。それなりに意味があるってわけか。でも、本人が嫌がることを無理やりやらせなくても、って俺は思うんだけどなぁ」

「そうよねぇ。みんな興味のあることは、それぞれ違うわよねぇ」

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