第23話 腐れ縁は、ままならない

「そんなもん貰って、どうやって持ち運びしろってんだ!」



八十八ミリ対竜種砲『屠竜』

変態の巣窟である陸軍兵器廠のどっかの馬鹿が、浪漫だけを詰め込んだ個人携帯用の決戦兵器みたいな銃砲。

極力重量を抑えるため、なるだね簡易な構造にしたという重量は300Kgを超え。

取り回ししやすいように25口径まで切り詰めた砲身長は2m20cm。機関部を追加で約260cm。

馬鹿かと。


無反動砲タイプの携行砲やロケット弾、携帯式誘導弾のような兵器が、通常型迷宮での戦闘では著しく制限を受けるとして開発されたらしい。

あのての武器はどうしても後方発射ガスとかカウンターマスが発生するからな。後ろ、危い。

それに連射もできないので、特殊チームのような少数部隊の高火力化を期待されていたらしい。


当初は実弾タイプの砲弾を使用する計画だったらしいが、携行弾薬や砲重量や射撃時の反動が取り扱い者の身体的負担が問題となり頓挫しそうだった。

そもそも迷宮内の魔素環境下でも300kgは一人で取り扱う武器としては致命的に重すぎる。

後、デカ杉。


しかし、同盟国のドイツ帝国から技術供与された魔力弾システムや新素材を組み込む事となり、携行弾薬や反動の問題は解消された。かのように思われた。

そう、まだ重すぎデカすぎ問題は無視された。

そもそも、アホみたいな重量の時点で中止しろよと。

『じゃあ、二人組で使えばいいんじゃない?』

『それもう、コンセプトからおわってんじゃん!』


そんなやりとりがあったとか何とか。


しかし、実際に出来上がったシロモノは、そんな事は些細な問題であったと鼻で笑えるような物であった。


必要魔力多過ぎ問題。

そう、高威力、高発射速度をコンセプトに開発されたこの砲の最大の欠点は、消費魔力量の極悪さである。

燃費最悪のアメ車も、裸足で逃げだす粋なヤツ。


普通の一般兵士は持てないし、魔力が足りない。よしんば撃てたとしても、一発で失神するくらい魔力を消費した。

20式魔導拳銃の弾倉部ような魔力タンクは、構造が複雑化するため、コレは使用者の魔力を直吸いする。

そもそも弾倉部分には『フルバースト用魔法触媒ヒューズ』が装填されてる。これ以上は機関部を設計から見直さないとだめだった。らしい。


一発撃つのに失神者が出るのにフルバースト機能なんか組み込みやがって。浪漫にもほどがあるだろ。


フルバーストを使うと砲身に不可がかかる為、保護と冷却用の魔導式が組み込まれたヒューズを消費する。ちなみに、この技術は当時、完全なオーバーテクノロジーの極秘レベルの代物だったらしい。


もう頑張った方向が、完全に浪漫に振り切ってる。

その頑張りを魔力の消費を軽減する方向で頑張ればよかったのに。


俺がコレに多少詳しいのは、現役時代の一応主力武器として使っていたからだけではない。


開発の評価実験に、少しだけ協力した事があるからだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜


当時、比較的魔力が多い兵士達の実験でもそのスペックを発揮させる事ができず、またもや頓挫しそうになったところ、俺の噂を聞いた開発者が藁をも掴む思いでゴリゴリのゴリ押しで開発協力を兵学校へと依頼してきた。


まだ学生だった俺は「まぁ、命令であるならば」と、連れて行かれたフィールド型迷宮で言われるがまま試射を数日間ひたすら繰り返した。


試射&試射&試射。


普通の人間なら、とっくに魔力枯渇で死者になって、ついでに数十回おかわりで死ねるくらいに魔力を吸われまくった。



「まぁ、魔力が多い魔導士タイプみたいな人達なら、なんとか使えなくもないですかね?」


「しかしながら、そんな連中は自前の魔法で十分らしい。あと、そういう連中は、君みたいに持ち上げて振り回したりできないよ。基本的に非力なタイプが多いのが魔導士型の特徴だから」


まあ、確かにそうだろうなと思った。

俺も魔法がゼロ距離じゃなければ、断ってたかもしれない。

高火力の遠距離攻撃手段が手に入る可能性を模索していた当時の俺は、ちょっとだけ希望の光を見つけた思いだった。


「でも、この高火力でこの連射性能は、魔法より確実に優れてますよね? むしろ、優れているのがこれだけなのが難点でもありますが、それでも使い道としては十分では?」


「……君の評価がその程度なのは、些か不満ではあるが……、いくら魔力量が多い者でも、魔法より魔力効率が悪いと、どうしてもロスを避けたがる傾向にあるのだよ。迷宮内での魔力残量は死活問題だからな。誰もが君のような魔力回復力を持っているわけではないのだよ」


そうだったな。俺は鬼神の加護のせいで、魔力の回復力を上回るような魔法を探す方が難しいくらいだ。


「まぁ、後は振り回すスペースがあれば、鈍器として使えなくもないですね」

「やめたまえ」


〜〜〜〜〜〜〜〜


まぁ、そんな感じで実験に付き合った『屠竜』は、結局、試作が数挺作られただけで終わってしまった。


まともに使える人間がほとんどおらず、貴重な金属や素材が大量に必要で生産コストがアホみたいに掛かる。

正式採用される筈なかった。

開発主任だけは納得できなかったようだが。


せっかくの試作砲のその後は、とりあえず陸軍兵器博物館と俺の手に流れていったわけ。



「マジックポーチ持っておらんのか?」


「免許取りたてのペーペーG級探索じゃナメんな! そんなもん買う金あったら探索なんてやってねーよ!」


「そういう事なら、ワシのお古を貸してやろう。触媒ヒューズも、その内数を揃えてやるからな」


ガチムチのオッサンのお古とか、なんか言葉だけで嫌悪感を覚える。


「間引きにフルバーストとか使うわけないだろ。迷宮踏破するわけじゃねーんだから」


「火力は正義だよ。間引きか踏破かなんて関係ないだろう? 圧倒的な火力による蹂躙。戦闘で重要なのはその一点のみ」


それは、あんただけだと思う。


「そもそも、民間人に武器を横流ししたらマズイだろ」


「一応はお前、予備役扱いだし。アレも正式装備じゃないから問題ない。何、整備や消耗品はウチが持ってやる、心配はいらん」


俺は心配しかないが?


「武器より、普通に金がいいんだが?」


「なんだ、そんな事か? 成松、民間への協力要請費いくらなら出せるか?」


ガチムチが副官へと問いかけると、「まぁ、ノルマはありますが、最低保証で日当10万ほどでしょう。素材買取りは魔石だけでも協会の5割増しなので、そちらも是非」


「やらせて下さい。武器はいらないです」


チョロっと潜ってノルマをこなせば10万……。

美味しすぎる。

素材の買取金も大盤振る舞いである。

さすが、軍は羽振りがいいぜ!


「ハッハッハッ! お前、いつの間に遠慮を覚えたのだ? まぁ,いい簡単な手続きがあるので近いうちに連絡する、その時までに用意しておく。開発主任も喜ぶだろうな」


"あんなもん"が必要になるような探索なんかするつもりないんだがな。ちょっと物騒すぎるだろ。

あの主任、まだいるんだ……。


「またお前がアレを使うとこを見てみたいものだ」


もう、コレ、貰うのは決定なんだろうな……



まさか、これが俗にいう腐れ縁というやつか?

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