第47話 11本の黒薔薇/カイル(過去)
僕の魔力暴走の事故から数日、ティアはずっと眠り続けていた。
急激に魔力を吸い取られ、一時は死も覚悟しなければいけない状態だったが、彼女の中に微かな魔力が残っており奇跡的に助かったのだ。
「母様…ティアは…まだ起きないの……?」
「ええ。でも、レヴァン夫人が診ているから大丈夫よ……」
「僕のせいだ…。……僕が制御できなかったから…………」
不安定さに気づき母が咄嗟に腕を回し抱きしめてきた。
だが、母の手も震えていて、動揺しているのがわかる。
「ごめんなさい………。ごめんなさい……。僕の…せいで…」
声が震え、喉が熱くなった。
涙が勝手に溢れ出す。
どうしたら目を覚ますのだろう。
ずっとこのままなの…?
不安と恐怖でおかしくなりそうだった。
「事故だったのよ。そんなに自分を責めては駄目…。しっかりなさい…」
「でも…ティアがっ……。ずっと目を覚まさなかったら…」
「大丈夫、きっと良くなるわ。お父様がついているもの。必ず良い方向に導いてくださるわ。だから今は待ちましょう?」
「うぅ…、…くっ、………」
「………お兄様ぁ……」
傍にいたソフィアも不安で泣きながら僕と母に抱きついてきた。
だが今は気にかけてやれるような余裕なんてなかった。事故とはいえ、自分が犯した過ちと自責の念で押し潰されそうだったのだ。
◆◆◆
それから少し後、ティアはようやく目を覚ましたのだが、事態は良い方には進まなかった。彼女の精神状態は最悪で、崩壊寸前だったのだ。
「あ…、ああぁっ…、きゃあああああああああああ」
「ティア!?落ち着いて!!」
「ティアちゃん!!」
「あああっ!やだっ!!怖いよぉ!!助けてぇええ!!!!」
ティアは僕を見ると更に酷く怯え、幻覚でも見ているかのように叫び声をあげた。レヴァン夫人が必死に抱きしめ落ち着かせようとしていたが、僕は呆気にとられただ立ち尽くすしかなかった。
「カイル、お前は外で待っていなさい」
「とう…さま……」
「今はそっとしておくんだ」
父に言われ、僕は自室へ戻されると部屋の机にはどんぐりが数個飾ってあった。
―龍の涙のお返し。ティアが取った中で一番綺麗なものなの。お部屋に飾ってね?―
小さな手でどんぐりを僕の手の平へと移してくれた。満足そうに微笑んだ顔が不意に浮かんできた。
「……っ」
一つ浮かべば、また次の表情が、その声が…。彼女と過ごした思い出がシャボン玉のように次々と溢れ出してきた。
『カイルおにいさまと手、繋ぐの好き。あったかいんだもん』
『いつも二回よしよしってするのね?おまじないなの?ティアもまねっこしようかな』
『うぅ…、ひっくっ、カイルおにいさまぁ……』
『ティアね、…ティアもね、ぎゅってしてもいい?』
視界がぼやけ、頬に温かいものが伝っていった。
「ティア……ごめん…」
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