第38話 アルベルトの特別稽古2
「アル兄さんちょっとストップ!」
「なんだ?」
「今ので手が痺れてもう無理!!!」
「……は?これからだろっっっ!!!!せっかく成長して楽しくなってきたと思ったのに!!!!」
「兄貴は規格外なんだよ~!そこ自覚して……」
……また三兄弟が揉め始めた。
さっきの緊張した空気とは違いどこか和やかさが垣間見えた。
「ちっ……仕方ないな」
アルベルト様は渋々といった様子で剣を収める。
「はぁぁぁぁ……、本当死ぬかと思った……」
「でも一撃食らわせられるようになったじゃないか。偉い偉い」
「シオン大丈夫か?お前本当すごいな!!めちゃくちゃ上達したじゃないかっ!すっげーー!!」
「へへっ!カイルさんのおかげだよ」
シオン様は汗だくになり、くたくたになりつつも照れながらそう答えた。
「よしっ!わかった。じゃあ今度からは四人でやろうぜっ!」
「………………え?あれ?兄貴今なんて言った?」
ニコニコ顔のアルベルト様をよそに三人はドン引きするような顔で彼を見た。
「ちょっ!待って、アル兄さんはたまにでいい。本当無理っ!」
「こら、お前ら、そういうところだぞ!すぐ怖がるなっ」
「怖いものは怖いんだよ」
「俺も疲れてきたし休憩するー…」
「聞けって!!!」
規格外の兄から逃れるように双子は私たちのいる丘の方まで逃げていく。
その場にはカイル様だけ取り残されてしまった。
アルベルト様は弟たちの情けない後姿を見ながら頭を抱えため息をつく。
「はぁ……、本当に困った奴等だな。…けど、カイルはまだやれるだろ?」
「え、僕も疲れたからそろそろ休憩したいんだけど」
「嘘つくなよ。まだいけるだろ!お前は強制的に付き合ってもらう。たまにはいいだろう?」
そう言ってカイル様の腕を掴むと強引に広場の中央へと連れていく。
「お前もその方が少し軽くなるんじゃないの?」
「…………。以前はそれで成り立たせていたけど、そう簡単な問題じゃないんだよ」
「そうか…。剣術で安定するならいつでも手を貸すのにな」
「はは…、アルの場合はただ遊びたいだけだろ?」
「まあな」
二人は何事もなかったかのように再び剣を打ち合い始める。私は呆然とその光景を見つめていた。
「さっきと桁違い……」
二人の姿に圧倒されつつ、見入っていると休憩していたシオン様がタオルで顔を拭きながらこちらにやってきた。
「うわっ……、やっぱり二人とも別格の強さだな。カイルさんのことはたまにアル兄さんから聞いてただけだったけど、本当にやり合える仲だったんだな」
「え…?」
「アル兄さんは学園での大会でいつも優勝してたんだ。王宮からも何度も声が掛かるほど注目されるくらい強い人でね。騎士団長も簡単になれるんじゃないかって噂されていたんだ」
「そんなに強かったんですか!?」
「ああ。でも薬草学の研究をしたいからって辞退しちゃってさ。兄さんには兄さんの考えがあるんだろうけど………。でも去年カイルさんが編入されてから生き生きとしててね。本当はすごく剣術が好きなんだと思う」
「確かにそんな感じね。研究生は剣術の授業はメインであるわけじゃないから、一ヵ月に数回しかやらないみたいなんだけどね。お兄様はその時にちょっとやらかしたら二つ名ができちゃったって言ってたわ」
隣にいたソフィアも話に交じってカイル様のことを教えてくれた。
「やらかしたってなにをしたの?」
「んー…。研究生って同じ年齢の人だけじゃないから、なんだか年上の人達に目をつけられそうになったみたいでね。面倒だから全員倒して剣を折ったって言ってたかな…」
「お、折る……?」
「そう」
「折れるの……?」
「私も意味が分からなかったわ。でもそのせいで『氷砕の剣王』って名前をつけられたって言ってたわ」
話に気を取られていると、急に訓練場の方から凄まじい音が鳴り響いた。
びっくりしてそちらに視線を向ける。
するとそこにはドカッと大きな凹みが地面にできているのが見えた。
「えっ、まさかアルがやったの?」
ヒヤッと嫌な汗が流れる。
あれがカイル様に当たっていたらと思ったらとてつもなくハラハラして怖くなった。
だが、よく見るとカイル様はどこも怪我をしている様子はなかった。
むしろ呆れている……?
「だから、力が強い。壊すなって言っただろう?」
「わりぃ……。つい楽しくて」
「はぁ…。後で直せよ……。キリもいいし、ここまでだ」
「ええっ!まだやろうぜ?」
「やーらーなーい」
アルベルト様が渋った態度を見せていたがその前に強制的に終了というかのように剣を指差した。
「……僕たちの剣、もうもたないと思うよ?ほら……」
そう言って指差した方を見ると、アルベルト様の刃がボロボロに砕け散っていた。
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