第39話 ティアラの宝物(過去)★
◆(カイル目線より)
最近、小さな妹がもう一人増えた。
大体はソフィアと一緒に遊んでいるが、たまに外で遊ぶと雛のように後ろからちょこちょことついて来る。
それが可愛くて仕方ない。
今日は三人でどんぐりを拾うそうだ。
そう言って僕もソフィアに駆り出され外へ出た。
「できるだけ綺麗なのを拾うのよ?穴が空いてるのは絶対拾っちゃ駄目なの」
「どうして?」
「だって虫さんが住んでいるんだもん」
ソフィアがティアに質のいいどんぐりと駄目なものの見分け方を教えている。
お姉さんぶった言い方をしていて少しおかしかった。
僕はそんな二人を見て微笑むと、地面に散らばるどんぐりを拾うことに集中した。
「あ、これいいな」
「え!どれ?いいの見つかった~?」
しゃがんでいると、後ろからどしっとソフィアが背中に飛び乗ってきた。
肩越しに覗き込むようにして僕の手の中にあるものを見つめる。
「どんぐりじゃないよ。綺麗な石を見つけたんだ」
「なんだ~。お兄様、石もいいけれど綺麗などんぐりがいいの。帽子がついたやつ!」
「自分で探せばいいじゃないか。ほら、あっちにもよさそうなのが落ちてるぞ」
指差すと、ソフィアもそちらに目を向けた。
「じゃあ、あっちまで動いて」
おんぶして運んでとせがまれる。仕方なく背負ってやると、ソフィアはきゃーとはしゃいで首に抱きついてきた。
少し進んで目的の場所へ下すと、後ろからどんぐりをちょこちょこと拾いながらティアがついてきた。
小さな手にいっぱい抱えていてなんだかリスのようだった。
「ねぇ、カイルおにいさま、さっきの石、ティアも見たいな」
「え?」
「どんな石だったの?」
「ああ、これ?龍の涙だよ」
そう言って彼女の小さな手に握らせた。すると彼女は目を丸くした。
「本当だ。綺麗。洗ったらもっとキラキラしそう!ここには龍が住んでるの?」
「うん、そうだよ」
「わぁ……!フォルティス家は龍を飼ってるの?すごい!」
ティアは疑いもせず目を輝かせて僕の噓を信じてきた。
「ふふふっ、ティア違うわよ。ただの石よ。お兄様ったら嘘ついたのよ?」
「えっ?そうなの??」
「いや、今回は本当だよ?ほら、ソフィアもちゃんと見てみなよ」
「え!?………本当にホントなの?」
そう言って、真剣な顔をしてこちらに向き直るソフィアの姿に思わず笑ってしまった。
まさかこんなにあっさり信じてしまうなんて二人とも純粋すぎる。
「ちょっとぉ〜お兄様ひどいっ!!」
ぷくっと頬を膨らませて怒ってくる。だが、ティアは本当か嘘かわからないようで石をただじっと眺めていた。
「ティアも嘘よ!信じちゃ駄目。お兄様ったらすぐそういうこと言ってからかうんだから」
「……そうなの?カイルおにいさま本当に嘘なの?」
少し残念そうに聞いてくる。
「ごめんごめん、嘘だよ。本当はただの石。でも、綺麗だろう?こういう白くて綺麗な雫のような形の石を僕らの中では龍の涙って言って集めて遊んでるんだ」
「へぇ……」
本当にただの他愛もない遊びだった。
父が持つ魔法の杖についた精霊石に憧れて、石集めをしてよく遊んでいたのだ。
でもティアはそういった遊びをしたことがなかったようでとても不思議そうに僕がみつけた石を眺めていた。
「カイルおにいさま、この龍の涙いいなぁ。ティアもほしいな」
「え?ああ、いいよ。でもただの石だよ」
「いいの。だってとっても綺麗なんだもん」
嬉しそうにポケットにしまおうとするが、持っていたどんぐりがポロポロと手の隙間から何個も落ちてしまう。
しゃがんでもう一度取ろうとするとその拍子にまた数個落としてしまった。
「ティア、もうそのまま立ってて」
代わりに拾って彼女のポケットに半分、入りきらなかったもう半分は自分のポケットに入れることにした。
ポケットを膨らませた彼女はありがとうと嬉しそうに微笑みを返してきた。
◆
「ねー、おにーさまー。お人形遊びするの、一緒にやって」
ノックもせずにソフィアは僕の部屋へと入ってくる。またティアが遊びに来ていたようでソフィアの後ろには彼女がぴょんと顔を出してみせた。
「そういうのは二人でやった方がいいんじゃないの?」
「さっきまでは一緒にやってたわ。でもお兄様も空いてるでしょ?」
「僕そういうのは得意じゃないんだけど…」
お兄様はこのくまさんを持ってればいいからといつもながら、強引に手を引く妹に今日も連れ出される。僕こういうの苦手なのに……。
「ソフィアおねえさま、今日はお城で舞踏会があるの。急いで準備しないといけないわ」
「そうね、ティアはこっちとこっちのどちらのドレスがいいかしら?」
妹の部屋で沢山の人形や小物を広げてお人形遊びが繰り広げられている。
着飾ったり、ダンスをさせてみたりと完璧に女の子遊びで、段々と眠たくなってくる。
「もう、お兄様!ちゃんとやって!目、閉じてる」
「はいはい。手はちゃんと動かしてるよ。ほら、踊ってるだろう?」
舞踏会という設定だったから、くまを適当に動かしダンスを踊らせることにした。
「ちがーう。皇子様はまだ出ないの。今からお城に行くところなんだから皇子様も準備してて」
「はいはい…」
「こっちの方がティアには似合うわよね」
「そうね。じゃあこれに合わせて髪飾りはこっちかなぁ?」
「ねぇ、お兄様、聞いてる?」
「うん、聞いてるよ」
「カイルおにいさま寝てる」
「違うよ?皇子は準備が終わって皆が来るのを待ってるとこなんだ。僕は王座で、そこにくま皇子が座ってるんだよ。王座は動かないだろう?」
「あ、そっか」
本当は眠かったから適当な理由をつけただけだったのだが、ティアはお利口さんで素直に聞いて、またソフィアとお人形たちのおめかしの続きをしてくれた。
◆
「……う、重い」
いつの間にかそのまま眠ってしまっていたようだ。重たいと思ったら、僕のお腹の上ですやすやと眠る妹の姿が見えた。
ソファの下にはティアまでもが、くまのぬいぐるみを抱きしめながら眠っている。
「ソフィア、起きろ。風邪ひくぞ」
肩を揺するが一向に起きない。
仕方なく、ティアも同じように起こそうとするが母親と間違えたのかひっくひっくとすすり泣くような声が聞こえてきた。
「おかあさま……」
寂し気なその声に思わず起こす手が止まる。
サラサラなその髪を撫で、せめてソファへ移そうと抱き寄せた。
だが寝ぼけているようで、そのまま抱き着かれてしまった。
一瞬驚いたが、ソフィアにするようにぎゅっと抱きしめ背中を撫でてあげた。
『大丈夫。ここにいるよ』
◆◆◆(ティアラ目線より)
薔薇の小物入れには私の大切なものがしまってある。蓋を開けると、優しいオルゴールが音を奏でてみせた。
中に入った蝶の髪飾りを取り出そうとすると一緒にハンカチに包まれた白い石が顔を出した。
手に取ると小さな粒がキラキラと光っていた。
「龍の涙……」
そういえば、小さい時にカイル様からもらったっけ…。
懐かしいなぁ。
気づかぬうちにずっと大切にしまっていたようだ。
なんの変哲もないただの石。けれど、子供の自分にとってはそんなことは関係なかった。ただ、綺麗だから……それだけで宝物だった。
寮の自分の部屋を見渡すとお気に入りのくまのぬいぐるみがベッドに並べられているのが目に留まった。
三人でお人形遊びをしたときにもカイル様が使っていたのは小さなくまのぬいぐるみだった。思い出してクスっと笑ってしまった。
「あなたもカイル様のように成長しちゃったのかしらね」
ふわふわのくまを手に取り抱きしめる。
(そういえば、小さい頃もこうやって抱きしめてもらったな……)
くまの背中をさすって自分にしてもらったことを同じように意味もなく真似してみた。
――大丈夫。ここにいるよ――
あの時、目を開けたらカイル様の顔が近くにあってドキッとした。恥ずかしくてそのまま寝ているふりをしてしまったけど…。
でも、あの言葉が小さな自分を支えてくれたような気がしたのだ。もうだいぶ昔でかすれそうになっていた記憶だったけれども…………。
「忘れちゃ駄目だよね。ちゃんと覚えておかなくちゃね……」
そういい私は大きなくまのぬいぐるみをそっと撫でた。
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・白い石は細かく言うと石英です。綺麗な水晶になれなかった鉱物…みたいな。そこら辺で見かける石です。
・龍の涙:龍(竜)の涙とかダイヤとか石集めが好きな子どもがよくする遊びです。大体はガラスの破片などをそう言ってますが…。ガラスはあまり落ちてなさそうだったので石英にしました。
・幼い頃の二人のイメージ絵
https://kakuyomu.jp/users/tomomo256/news/16817330658244387343
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