第31話 お嬢様と演奏会のその後


 演奏会が終わり、フェルマーナさん達の処分も決まった。彼女たちは一週間の謹慎処分と反省文の提出を義務付けられたらしい。


 その後フェルマーナさんとは直接会うことはなかった。ただ数日後彼女のメイドが手紙を持って現れた。


 フェルマーナお嬢様が書いたものだと言っていたが、本当に本人が書いたのだろうか…。



 また、逆にジディス卿は謹慎が解けて、再び生徒会役員として復帰したそうだ。


 だが以前とは違い女性を所かまわず口説くような態度がピタッとなくなったという噂を耳にした。


 今回の演奏会の処罰内容と比較すると、ジディス卿の方が重かったようにも思う。



 カイル様に尋ねると、「これまでの不祥事を一緒に報告させてもらったんだよ。彼に泣かされた女性も多かったことだしね。少し彼の家の方にも報告させてもらったんだ」と黒い笑顔で微笑まれた。



 一体どんな悪さをしたのだろう。気になったけれど、「ティアラは泣いてしまうだろうから…」と濁されてしまった。



「そういえば、お嬢様、演奏会の日は結局カイル様とは踊られたのですか?」


「ううん、沢山の人に声を掛けられたし、リズレイアさんと話したりして…とても踊れる気分ではなくて」


「それは残念でしたね…」



 そうなのだ。実は演奏会の後のガーデンパーティーでは野外ステージが用意され、私もそこで歌を歌ったわけなのだが。


 そこでは春の舞をテーマに数名が前で踊るというイベントもあったのだ。そしてその踊り子達は途中で舞台下へ降りて生徒たちをダンスに誘うのだ。



 それは『春の訪れを祝う』ということで誘われた者は皆踊り合い祝うという趣旨もあった。


 リリアナ皇女ももしかしたら当初はカイル様と踊ろうと思っていたのかもしれない。


 他にもカイル様に声を掛けたそうにしていた令嬢達を見かけたのだが、私が足を痛めていたこともありずっとそばにいてくれたので、敢えて近づこうとする人はいなかった。


 そしてもう一つ、実は今回の演奏会に出たことで「演奏の会」から正式なお誘いが来てしまった。


 フォルテ先生とクリス皇子殿下に勧められ、それを聞いていた生徒たちの目線もあって、半ば断れず…といった感じで受けてしまった。


 でも、今冷静になってよく考えてみたら、皇子殿下が皆のいる前でそのような誘いの提案をされてきたことや、皆の期待を利用して断れない状況を作ったことなどを考えると私も結局は流されてしまったのかな…。


 今後この演奏の会に入ったことで、皇子がなにを企んでいるのかわからないけれど、もっと用心して選択していかなければ。


 フェルマーナさんの手紙を机に置くと、途中だったリボンの刺繍を再開する。


 図案がようやく決まったのだ。無難ではあるが平和の象徴の鳩にしようと思う。周りにも少し模様をつけて完成図を思い描きながら針を刺す。



「フェルマーナ様からのお手紙はどうでしたか?」


「謝罪文ではあるけれど、当たり障りのない文章で本当に反省しているのかはなんとも…」


「そうでしたか。でももう気にするべきではないですね。その手紙が嘘でも本当でも罰は免れられませんしね」


「うん…」



 なんとも最後まで後を引くような出来事だった…。



◇◇◇(クレア目線より)



「―であるから、魔力とは実際の体力、生命力と深い繋がりがある。それゆえ、無理に魔力を使い切ったり、魔力を奪われたりすると命に関わるのだ」


「先生、もし使い切ってしまったらどうなるんですか」



 褐色の髪の生徒が手を挙げ質問をする。名前は確かアスター・エルスターだったかな。私もそこは気になっていたので彼の質問はありがたかった。



「そうだな……。最悪死ぬ。大体はその前に体力の限界を感じて自分で魔力切れを体感できるだろう。魔力を回復するには休息が一番だが、回復するまで数日かかる。だが、そのような危険な状態に陥らないように自分の秀でた…そうだな属性と言おうか。火の属性のある者は火に関連した精霊石を常に身に着けておくなどしておけば微弱な魔力は保持して置ける。魔力は精霊石に引っ付くような関係にあるんだ。このような感じで…」



 先生は黒板に絵を描きながら説明してくれるが、その絵はなんとも言い難いものだった。



(精霊石に顔が書いてある…)



 人間の絵に顔が書いてあるのはわかるけれど…。まぁ、分かりやすいんだけどね。なんだか先生の意外な一面を垣間見た気がした。



「それから、精霊石に自分の魔力を流し込み保管するという方法もある。だが、これに関しては膨大な魔力量や、コントロール、そしてなにより魔術上級者でなければできない技術でもある。このように精霊石は本体から魔力を補助し魔法を放つこともできれば、石の中に閉じ込めることも可能である」



 授業は淡々と進み、気づけは終了の時間となっていた。帰り際に、コーディエライト先生に呼び止められる。



「レイアード君、以前言っていた『魔力の色』についてだが…。帝国にいる宮廷魔術師の知り合いに確認してみたんだが大体の場合は太陽のような光だと言っていた。だから、白かと思うのだが…。しかし光と闇の魔力だけは特別だそうで、らしい」


「いつも七色に見えるわけではないんですか?」


「ああ、それだけ特殊ということなのだろう。そもそも光属性の者が少ないからな。だから君の魔力はとても貴重だということでもあるのだよ。君がその能力を更に開花させれば、王宮からも直接声がかかるかもしれない」


「…!」


「ああ、それから、君が言っていた黒い靄なのだが。一般的には黒は闇の魔力だ。だが、君が見たものについては……ここでは少し言い言いづらい。まぁ強力な魔法ということだ」


「…え」


「もし聞きたいようだったら、私の研究室の方で話そう。…ふむ、そこならシノンも一緒に研究に参加していることだし……。いや…ああ、そうだ。できるな…」


 先生はまたぶつぶつと呟き始める。だが、なにか閃いたかのようにこちらにまた話を振って来た。


「どうだろう、君は飲み込みが早いから、特別な課題をやってみないか?今授業でやっている内容は君にとっては物足りないのではないか?」


「えっ……あ…」



 実は、先生の言う通り、教科書に載っている範囲は大体理解済みではあった。


 正直更に高度なものを学んでみたいという欲もある。この探求心や好奇心は魔術師なら誰もが抱く感情らしい。


 だが、ふとある人の言葉が頭に浮かんだ。




 ―『誰に頼り、誰を信じるのか』―




 フォルティス卿の言葉が脳裏に浮かぶ。


 コーディエライト先生の表情からは本当に信用できる人なのかやはりまだよくわからなかった。だから、探るように慎重に言葉を選んだ。



「あの……、どんな課題なんですか?」


「うん?そうだな……。君の特殊能力を向上させる為にも精霊石に魔法を閉じ込める方法などからやってみようかと思うんだが」


「本当ですか?!」



 思わず声を上げてしまった。確かにそれは私が一番興味を持っている内容だったからだ。



「おぉ!知っているようだね。さすがだな。ではやるということでいいだろうか?」


「……はい」


「では、きたまえ。研究室の方で詳しく続きを話そう」



 そう言って先生は前を歩き出す。その傍には使い魔のルビーがちょこんと行儀良く隣を歩いていた。



 その背中を見つめながら、私は小さく呟いた。



「……これで、何かわかるかもしれない」



(大丈夫よ。研究室には鷹の君もいるのだし。フレジアが良い人だって言ってたし…)





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