2番目の男
久田高一
2番目の男
男がいた。年齢は20代半ば。男にはそこそこの才能があり、大抵のことは人より優れていた。
しかし、男の人生には呪われているとしか思えないことがあった。自分が1番欲しい商品が品切れで次にいつ手に入るかはわからず、違うもので我慢することなどざらだった。男にはミステリー作家になりたいという夢があったが、それは叶わず、やけくそでその鬱憤を歌にしたらちょっとした評判を呼んだ。ラジオに呼ばれることもあったが、結局は1番やりたいことではないのだ。歌うたびにミステリー作家になりたい気持ちはどんどん大きくなった。少し経って、ちょっとした有名人の今なら話題になるかもしれないと自分の小説を宣伝してみたが、何の反響もなかった。そのうち男は人生を呪い、疲弊し、結局歌うのもやめてしまった。つまり男が1番望んだことは何一つ叶わず、2番目に望んだことばかりが叶った。そんな人生だった。
男には妻がいた。妻は、男が最も愛していた女性にこっぴどく振られたとき、親身になって慰めてくれた、男が2番目に好きな女性だった。だが勘違いしてはいけない。男は、未だに忘れられない女性がいるからといって、妻に冷たくするようなことはなかった。男は確かに妻を愛していた。そして娘が生まれた。娘は男にとって何にも代えがたい宝だった。
ある日、男は娘とデパートに出かけた。その日は妻の誕生日だったので、二人でプレゼントを買って帰ってママを喜ばせてやろうと娘は張り切り、デパート内を駆け回った。幼子の体力はすさまじい。男はほんのちょっとの間、娘を見失ってしまった。それがいけなかった。
悲鳴が上がる。娘はひょろりとした体に感情のこもっていない目をした、まるでカマキリのような男の腕に抱かれ、ナイフを突きつけられている。男が説得しようと近づくと、カマキリは、およそ人間には出せないような声で喚き散らしながら、自慢の鎌を振るった。それが男の腕に当たり血が流れる。どうやら本物のようだ。娘を守らなくては!男は勇気を奮い、カマキリに突進した。見かけ通りカマキリはあっけなく倒れた。カマキリの腕から娘をもぎ取り、ひしと抱きしめる。瞬間、野次馬の男共3人がカマキリを捕まえた。よかった。歓声が上がる。男をこの世で1番の父親だと称賛する声。男は今度こそ、自分が1番望んだことを成し遂げたのであった。
ある新聞からの切り抜き。
16日午後14時22分ごろ、警察はK県M市のデパート「〇〇〇〇」
にて、会社員の前川昭博さん(27)を殺害したとして、M市の40代男
性を逮捕した。警察によると男性は事件当日、デパートをハイジャックし
ようとして、その場に居合わせた男性3人に取り押さえられたが、その拘
束を抜け、前川さんを背部から刺殺した疑いが持たれている。
この記事は、その日の一面を飾ったR国とU国の開戦を伝える記事の真下に、小さく載っていたものだ。
2番目の男 久田高一 @kouichikuda
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